「FFGS経営セミナー2025」 レポート
「お客様の最初に相談される会社になるために」
講師:タカラサプライコミュニケーションズ株式会社
取締役 デジタル・印刷本部長 杉本 豊明 氏

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FFGS経営セミナー2025バナー

 富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社(以下、FFGS)は、11月17日、富士フイルム 東京ミッドタウン本社(東京都港区)にて「お客様の最初に相談される会社になるために」をテーマに、「FFGS経営セミナー2025」を開催しました。
 FFGSでは、全国の150人以上の印刷会社経営層からヒアリングを行い、経営上の共通課題を抽出。各印刷会社の方々のさまざまな取り組みについて伺ってきました。今回の経営セミナーでは、現在の厳しい状況を打破するため、「顧客から最初に相談される1人(会社)」を目指してさまざまな取り組みを実践し成果を挙げてこられた、タカラサプライコミュニケーションズ株式会社(本社:京都府京都市伏見区舞台町1番地 代表取締役社長:浦 育夫氏)の取締役 杉本 豊明氏を講師に迎え、顧客のベストパートナーになるための具体的な取り組み内容と、印刷の新たな価値を創造するユニークな技術を使った「友禅印刷」についてお話しいただきました。その内容をレポートします。


危機感から始まった経営改革の物語

前田正樹
進行役のFFGS 広報宣伝部 部長 前田 正樹

 京都に本社を置くタカラサプライコミュニケーションズ株式会社は、宝酒造やタカラバイオなどを国内外に展開する宝ホールディングスのグループ会社です。2024年4月に大平印刷株式会社とタカラ容器株式会社が合併し、社名変更しました。前身の大平印刷は、明治40年創業と長い歴史を持つ総合印刷会社です。
 同社でデジタル・印刷本部長を務める杉本取締役が変革の必要性を痛感したのは、ある研修での一言がきっかけだったといいます。そのとき講師が研修の冒頭で放った言葉は「皆さん、このまま何もしなければゆっくり死んでいきますよ」。この言葉は、杉本取締役の心に深く刺さりました。すでにさまざまな努力を重ねていた中でも、売上は少しずつ、確実に減少しており、この「ゆっくり死んでいく」という表現は、まさに当時の状況を的確に言い当てていました。大きな危機感を抱いた杉本取締役は、従来の取り組みを根本から見直し、大きな変革に着手することを決意しました。

――ここからは杉本取締役によるお話を当日の資料とともにご紹介します。


「ベストパートナー活動」という新たな営業哲学

 「ゆっくり死んでいきますよ」と言われたので、死なないようにするにはどうしたらいいのか。それまで取り組んできたことを、もっと大きく変えなければいけないのだということで、手をつけたのが、こちらの三つです。

1.ベストパートナー活動 ―結果管理からプロセス管理へ―
2.顧客の見直し ―自主提案が届く顧客へシフト―
3.顧客別の利益率のマッピング ―顧客対応の優先順位を見える化―

 まず核になったのが、「ベストパートナー活動」です。多くの企業が掲げる「提案型営業」というスローガンを当時の私たちも掲げてきましたが、それは別の見方をすると押し売りになりかねないという課題があります。自社ができることばかりを訴求してしまうと、顧客が本当に求めているものとのミスマッチが生じやすい。一方で、理想とされる「価値創造型営業」は、実際のところ実現は容易ではありません。
 そこで当社が目指したのは、顧客の課題を深く理解し、その解決策を提案する「課題解決型営業」です。

ベストパートナー活動1

 ベストパートナー活動は、6つのプロセスから構成されています。「情報提供」、「情報収集」、「課題発見」、「自主提案」、「品質ヒアリング」、そして「効果ヒアリング」です。一番重要なのは、「受注」をゴールとするのではなく、顧客との信頼関係を構築し、「最初に相談される一人になること」をゴールとしていることです。
 この活動で特に重視しているのが、「課題発見」と「自主提案」です。顧客から依頼される前に、潜在的なニーズを見つけ出し、自ら提案する。そのためには、顧客から本音を引き出すヒアリングが不可欠で、そこで重要なのが最初の「情報提供」です。価値ある情報を提供することで、顧客からも自然と情報が返ってきて、真の課題が浮かび上がってきます。
 もう一つの重要な要素が「効果ヒアリング」。印刷物やWebサイトを納品して終わりではなく、それが実際に顧客の目的達成に貢献したかを必ず確認します。顧客には必ず目的があるわけなので、その効果を追跡することで、次の課題が見えてくる。このサイクルを回すことで、顧客との関係性は深まっていくと考え、実践しています。


活動を支える情報共有の仕組み

 ベストパートナー活動を全社に浸透させるため、社内報告の仕組みも大きく変えました。従来の営業日報は、上司への行動報告という位置づけでしたが、現在は名刺管理ソフトの「Sansan」を活用して全社員が情報を共有できる仕組みに変更しました。営業担当者は、顧客との接触内容を記録します。どんな情報を提供し、どんな反応があったか、どんな課題を発見し、どんな提案をしたか。これらの情報は、メールで配信され、誰もが閲覧できるので、個人の活動が組織の知見となり、他の営業担当者の参考にもなります。
 さらに、上記の6つのプロセスは月次で数値化され、個人ごとに集計されます。情報提供の回数、情報収集の件数、課題発見数、自主提案数などが可視化されるのですが、この数値は評価するためではなく、支援するために使われています。例えば、課題は発見できているのに自主提案が少ない担当者には、上司が同行して提案の仕方を指導する。効果ヒアリングが苦手な担当者には、一緒に顧客を訪問してヒアリングの方法を示すといったことです。

ベストパートナー活動2

顧客ポートフォリオの戦略的見直し

 ベストパートナー活動を効果的に展開するために行ったのが、顧客層の見直しです。広告代理店や出版社を経由した仕事では、最終顧客の課題を直接把握することが難しいので、こうした仕事を意図的に減らし、メーカーや流通、学校など、エンドユーザーとの直接取引にシフトしました。
 そのうえで、顧客別の利益率マッピングという独自の分析手法を導入しています。売上上位50社について、粗利率と限界利益率を48マスのマトリクスにプロットし、右下のゾーンは、印刷案件が多く内製できるため限界利益率は高いが、価格競争が激しく粗利率は低い。左上のゾーンは、Webや動画制作など外注が多く限界利益率は低いが、提案から入るため粗利率が高い。目指すべきは右上の理想ゾーン、つまり粗利率も限界利益率も高い顧客です。
 このマッピングは毎月更新され、各顧客の1年間の推移を追跡、前年同期と比較して右上に移動している顧客は青、左下に移動している顧客は赤で表示されます。これにより注力すべき顧客を明確にし、営業戦略を最適化するための指標にしています。ベストパートナー活動が効果的に機能すれば、顧客は自然と右上のゾーンに移動していくわけです。

顧客別利益率マッピング

情報提供を支える3つの取り組み

 ベストパートナー活動の起点となる「情報提供」を充実させるため、当社では、①デジタルコンテンツ制作実績の発信、②「デジスタイル京都」の運営、③社会課題への対応、の3つの取り組みを展開しています。個々の営業担当者に任せるだけでは、提供できる情報に限界があり、担当者間で差が生じてしまうからです。
 1つ目のデジタルコンテンツの制作事例は、Webサイト、動画、VR、ドローン撮影など、多様な事例をデータベース化し、営業担当者がノートパソコンで顧客に見せられるようにしているのですが、印刷物より顧客の関心を引き、興味を持っていただけています。各事例には、顧客の課題、提案内容、成果がまとめられていて、顧客の声も掲載されています。これらの事例は、Webサイトでも公開されており、PDF形式でダウンロードして紙で持参することもできるようになっています。
 また、「Sansan」の一対一メール機能を活用してこれらの事例を個別に配信しています。メルマガとは違って、各営業担当者の名前とアドレスで送ることができるので開封率が高く、顧客からの返信も直接担当者に届くので商談のきっかけになりやすいというメリットがあります。

情報提供の充実 1.デジタルコンテンツ制作実績の発信

 2つ目は「デジスタイル京都」というオウンドメディアの運営です。20年前から京都の情報を発信しているこのサイトは、イベント情報と京都情報の2つのセクションで構成されています。イベント情報は、京都市の観光ナビと連携し、美術館や博物館の企画展から小さなギャラリー、寺社の特別拝観まで、幅広い情報を網羅。京都情報のセクションでは、多くの個性強めの外部ライターと契約し、ちょっと尖った独自の視点で発信しています。誰でも知りえる普通の情報ではなく、あんこ好きのライターが和菓子をあんこの観点から評価したり、クッキー缶のデザインに特化して語るライターがいたりと、ユニークな切り口が特長になっています。このコンテンツは質の高さが評価され、「YAHOO! JAPANタイムライン」にも配信されるようになっています。

情報提供の充実 2.デジスタイル京都

 3つ目の「社会課題への対応」というのは、「環境に優しい」と「人に優しい」という2つの軸で展開しています。環境面では、紙、インキ、版、印刷方式、加工方法など、さまざまな選択肢を顧客に提供しています。人に優しいという観点では、カラーユニバーサルデザインに20年前から取り組んでおり、色覚特性を体験できるバリアントールという色弱模擬フィルタの代理販売も行っています。また、「チャリティーペーパー」という寄付金付き印刷用紙の取り扱いも、17年前から続けており、企業の社会貢献活動として、特に株主向けの情報発信ツールに多く採用されています。これらの情報を提供することで、顧客の関心を引き、新たな対話のきっかけをつくっています。

社会課題に応えるツール

社会貢献としての「京都ふぉんと」プロジェクト

 もう一つ、社会貢献活動として取り組んでいるのが、2024年にスタートした「京都ふぉんと」プロジェクトです。これは、渋谷区で始まった「シブヤフォント」の取り組みを京都に展開したもので、障がい者アーティストが描いた絵や文字を、デザイナーがフォントやデザインパターンとしてデータ化し、トリミングや色の変更、サイズ調整など、使用目的に応じた自由な加工ができるようにしています。これらがさまざまなツールや商品に使われると、使用料が原画を描いたアーティストに還元される仕組みになっています。

共創アートプロジェクト「京都ふぉんと」

紙の新たな価値を創造する「友禅印刷」

杉本 豊明 氏

 最後に、「友禅印刷」をご紹介します。デジタル化が進んで印刷需要が落ち込んでいく中、紙の価値をどう高めるか、印刷の技術を使ってどれだけ新しい付加価値を創れるかを考えて進めてきた活動です。2011年に印刷技術開発部を発足させ、オンリーワンの技術開発に着手しました。その時の指針は、「設備に頼りすぎないこと」「伝統技術を活用すること」、そして、グループ会社に宝酒造があるということで、「酒ラベルに使えること」でした。新しい設備を導入すれば、一時的には優位性を持てますが、数年後には他社も同じ設備を導入し、再び価格競争に陥る。そうではなく、簡単にはまねできない技術を開発することが目標でした。さまざまな試行錯誤の末、たどり着いたのが、京都の伝統工芸である友禅染の技術を応用した印刷手法でした。
 友禅染の特徴は、特殊な糊をバインダーとして使うことにあります。糊を使うことで、染料が生地ににじむのを防ぎ、細かい線や複雑な絵柄を表現できるようになっているのです。当社は、機能性に優れたこの糊を使い、さまざまな素材を紙に定着させる技術を開発しました。
 開発当初は、酒ラベルに華やかさを加えることを目指し、金属粉やラメなどキラキラした素材を使っていました。そこから「粉状のものが印刷できるなら」とさらに発想を広げた結果、お香や抹茶、炭など、香りや消臭などの機能性を持つ素材の印刷にも成功し、素材そのものが持つ特性を紙の上で再現できるようになりました。
 近年、特に注目されているのは、廃材や残渣物を活用したアップサイクルです。捨てられるはずだったものを粉砕し、紙に印刷することで、新たな価値を生み出す。この取り組みは、企業のブランディングや顧客ロイヤルティーの向上に貢献しています。
 代表例として、浅草寺の本殿前の大香炉にたまった灰を使用した御朱印紙があります。参拝者が手を合わせたお線香の灰が御朱印紙のベースになっており、そこに少量のお香を加えています。浅草寺では、これを「香灰紙」と呼んで付加価値を高めています。

友禅印刷<情緒性事例>

 このセミナーでお配りしている抹茶のカードも、実はアップサイクル製品です。当初は市販の抹茶を使っていましたが、飲めるおいしいお茶を飲めなくしてしまうのは、むしろダウンサイクルではないかという疑問が生まれました。そこで、茶業組合の協力を得て、抹茶の製造過程で、最終工程のすりつぶしの際に、細かすぎて宙に舞ってしまう茶葉「茶ぼこり」を使うことにしました。抹茶と同じ手間をかけて作られるのですが、下に落ちるか、舞って集塵機に吸われてしまうかで、製品か廃棄物かが決まってしまう。この茶ぼこりを印刷に使うことで、廃棄物に新たな価値を与えています。

抹茶のカード
セミナー会場で配布された、抹茶をアップサイクルしたカード

 「友禅印刷」の強みは、印刷した素材が剥がれ落ちないことで、印刷した上からさらにレーザープリンター、インクジェットプリンター、オフセット印刷機で文字や絵柄を加えることができます。この特性により、さまざまな用途に使用することが可能です。
 私からの話は以上になります。少しでも皆さまのご参考になれば幸いです。

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