「デジタル印刷の可能性、魅力を発信!」 クリエイターコラボ企画 第二弾
Revoria Press PC1120 × おと(イラストレーター) <後編>

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「デジタル印刷の可能性、魅力を発信!」 クリエイターコラボ企画 第二弾 Revoria Press PC1120 × おと(イラストレーター) <後編>

【作品DATA】
– タイトル:『Liberta』
– イラストレーション/グラフィックデザイン:おと
– 企画・トータルプロデュース:富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社
– 制作協力:富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
– 製本・シャドーボックス制作:
有限会社 高田紙器製作所・株式会社 千葉印刷・株式会社ホリゾン・株式会社ムサシ(50音順)
– 出力機 「FUJIFILM Revoria Press PC1120」「FUJIFILM Jet Press 750S」
– 仕上がりサイズ:A3

おと Illustrator
お花をモチーフに煌めく女の子を描く。本物を見ながら描くという繊細な植物と、人物のストーリーを感じさせる視線や肌の艶、メイクの煌めきなど丁寧に描かれたイラストがSNSで話題を呼び、2021年よりフリーランスのイラストレーターとして活躍。(Instagram @ototoi3046

FUJIFILMデジタル印刷機ならではの作品をクリエイターとコラボレーションして生み出し、印刷の新たな可能性を探る企画の第二弾、イラストレーター・おとさんとのコラボレーションの後編をお届けします。できあがった『植物図鑑・Liberta』を前にして、作品づくりの過程を振り返りながら座談会を実施しました。(前編はこちら

<座談会参加メンバー>
おとさん
●富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社 広報宣伝部 藤井 渚
●富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社 技術本部 技術二部 課長 早川 貴之
●富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社 技術本部 技術二部 西 和哉
●富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 グラフィックコミュニケーション事業本部 バリューイノベーショングループ 鎌形 明

集合写真

■唯一無二の作品とご対面

藤井:おとさん、お待たせしました。おとさんが描いてくださった5つの作品を「Revoria Press PC 1120」で出力し、3層のシャドーボックスを表紙に、本身の無線綴じ製本と合体させたA3サイズの作品です。ご覧になった感想を聞かせてください。

おとさん_1

おと:ありがとうございます。イメージを超えてきています……。本当に、A3サイズで、こんなに繊細なものが出来上がるとは思っておらず、すごいです。
いつもデジタルで作品を描いて、デジタルの世界で見せることを考えていたので、私自身、印刷に対してすごく前向きになれた作品だと改めて感じました。

藤井:私も途中の段階で1点ずつの作品は見ていて、もちろんそれぞれに素敵だったんですけど、こうして1冊に仕上がった作品のクオリティーの高さに驚きました。A3サイズの制作は大変でしたが、存在感があり、正解でしたね。
でも、今のお話で、「前向きになれた」ということは、今までは印刷にあまり前向きでなかったと……。

おと:今まで、デジタルで描いたものはデジタルの方がいいし、アナログで描いたものはその現物、アナログで見るのが一番いいという考えだったので、自分で描いているデジタル作品をアナログ作品にするメリットがあまり分かっていなくて。ネット印刷では、自分で色味の選択ができないので、アナログ作品は別物という感覚でした。でも今回は、自分で色味を選択でき、デジタル作品に、現物の良さをプラスすることができるんだということがすごくよく分かりました。

作品表紙
藤井さん

藤井:おとさんの作品は、データで見ても、もちろん素晴らしいですが、こうして現物で見ると、データとは異なる訴求力を感じますね。どうしても作品に目がいってしまうような……。

おと:特に表紙のシャドーボックスですよね。やっぱり、表紙が命じゃないですか。描くときも表紙は一番インパクトのある絵にしたいと思っていました。それをこんなふうに立体にしてもらったので、さらにインパクトが強くなり、表紙だけでも一つの作品になっているので、作っていただけて本当にうれしいです。出力後の加工は富士フイルムさんに全部お任せしてしまったので、工程は分かっていないんですが……。

おとさんiPad

藤井:加工については後で鎌形さんにもお話を伺おうと思いますが、このシャドーボックス2層目のお花のカッティングは株式会社ムサシさんにご協力いただきました。細い茎や細かい花びらの繊細なカッティング、素晴らしいですね。女の子のビジュアルにきれいに影を落としてくれていますね。

おと:はい、イメージどおりというか、イメージを超えてきています。


■収録されている5つの作品について

表紙
※表紙は、合紙したフレーム・繊細なカッティングのお花・ベースの女の子と3層のシャドーボックスになっている

藤井:今回、おとさんには5つの作品を描いていただきましたが、作品についての説明をお願いできますか?

おと:はい、この作品のタイトル『Liberte』は、イタリア語で“自由”という意味です。「唯一無二・自分らしさ」をテーマに、植物図鑑をイメージして制作しました。私たち人間には一人ひとり個性があって、自分の選び方・在り方次第でどんな姿にだってなれると思っています。一見同じように見える植物にも一つひとつ個性があって、同じ種類のお花でもそれぞれ異なる姿形をしています。周りと同じでなくていい、自分らしく唯一無二の存在でありたいという思いを込めて、私たち人間と、植物の中でも独特の個性を持つネイティブフラワーを重ねた作品を5点制作しました。
 表紙はまず、思いの全て、好きなもの全てを詰め込んだようなイメージで、魂を込めて描きました。大事な表紙なのでインパクトも重視しているのですが、お花がメインになっており、女の子もモリモリにするとバランスが取れなかったため、衣装や髪型をシンプルにしています。作品全てでメイクにこだわっているのですが、表紙の子はポイントで赤を入れるくらいにまとめました。

上:フランネルフラワー。下:ワックスフラワー

2つ目の『フランネルフラワー』は、花びらがふわふわして柔らかく、全体に優しいイメージのお花なので、その雰囲気を出すためにベースの絵の上にトレーシングペーパーを重ねて、そこにホワイトでお花を印刷してもらいました。緑と白を基調にしてナチュラルブーケみたいな色味と風合いを出せるよう、用紙はNTラシャを選びました。人物は他の作品に比べると中性的で、見る人に委ねる感じで描いています。また、涙の部分にはクリアトナーで艶を出してもらいました。

3つ目の『ワックスフラワー』は、見た目は割とポップな感じの小花なので、私の中では“小さい子”みたいなイメージと、このお花の特長でもある“寒さ、暑さ、乾燥によく耐える強さ”を表現したいと思って描きました。お花の絵は人物とは別のシートで、透明シールになっていて、見た人が好きな場所に貼ることができるんです。見た方がこの本のコンセプトでもある“唯一無二”の作品を生み出せるようになっています。「『PC1120』でシールもプリントできるから使ってみては?」と藤井さんに提案いただいて、「めっちゃいい!」と思って絶対取り入れたくて。誰でもシールを貼ることって大好きですよね。私も小さいころからずっと好きで、いろいろ集めたりしていて。こんなふうに作品に使えるとは思いませんでした。

藤井:この『Liberte』はページごとに用紙も特殊色の使い方なども全然違っていて、「『PC1120』でできること」をいっぱい詰め込んでいるのですが、このシールは、透明のタックシートにホワイトを使ったお花の絵柄とクリアトナーを重ね打ちして、表面をプックリさせてるんですよね。本当にかわいいページに仕上がりましたね。

おと: 次の『プロテア』は、ネイティブフラワーの中でも知名度が高くて存在感のあるお花です。ブーケの中でも強い存在感を放っていますが、それに負けないくらい、女の子のまなざしにこだわって制作しました。

プロテア1
プロテア2
プロテア3

女の子の絵が下にあって、それだけでもメインとして見られるように背景にはシルバーの特色を引いてもらっているのですが、手に持っているブーケはお花の前後や立体感を出すためにフィルム3層に分けて印刷していただきました。

藤井:フィルム3枚とベースの人物の絵柄が抜き合わせで、印刷も加工も、なかなかシビアな作品でしたが、おとさんの意図がうまく反映できたのではないかと思っています。

セルリア

おと:最後の『セルリア』は別名「頰を染めた花嫁」と呼ばれていて、ブライダルブーケなどによく使われるお花です。本当に繊細できれいなお花なので、それを前面に出したいと思って描きました。作品中5人の中で、この子だけラメのメイクを使っているので、西さんと相談してラメ感がきちんと印刷で表現されているかにこだわりました。また、花びらも実際はそんなにツヤは無いのですが、アクセントになるように花びらにクリアトナーで艶感を足してもらいました。デジタルでは描き分けることでしか表現できないことも、印刷物に落とし込むときは、いろんな技法を使ってアクセントや違いを見せられるのがとても新鮮でした。


■「Revoria Press PC1120」でのデジタル印刷について

藤井:描いていただいた5つの作品をショールームで出力する際も立ち会っていただきましたよね。用紙はそれぞれ何種類かの候補があって、実際に出力して選んでいったんですよね。

おと:はい、竹尾さんのショールームで見本をいただいてきた中から絵を描きながら候補を選んでFFGSさんにご準備いただいて、実際出力を見て決めました。こんなにたくさんの用紙をテストできることなんて初めてでしたし、デジタルで描いたものを紙の上で表現するときにいろいろ変化するので、何を優先するかを考えながら選択するとか、「デジタルで描いていたときとは違う印象だけど、こっちの方が落ち着いていい」とか、その場で見て比較して納得する……という経験は今までになかったので、本当にいい経験をさせていただきました。

藤井:今回、最終的に10種類以上の用紙を使って、色の調整をしながら出力していきました。オペレーションを担当した技術部の早川さんと西さん、出力で工夫をしたポイントなど教えてください。

早川課長

早川:おとさんは作品を全てiPad(RGB)で描いていらっしゃるので、タブレットで見る色に比べ、オフセット印刷基準のJapan Colorは色域が狭くなります(濁る)。また紙によっての発色の違いもありますので、そこを今回は元データを調整せずに、「PC1120」の特色ピンクを使用することで色域が広がりRGB発色に近づけた出力調整を行いました。普段、印刷会社様とのお話の中では、基本、CMYKがベースですし、オフセットを基準にするのでJapan Colorということになるのですが、エンドユーザーさんや作家さんの場合はRGBデータが基準ということもあるわけですから、今後は今回経験したように、RGBデータに近づけながら、印刷物としてどれだけきれいに出すかというノウハウも蓄積していきたいです。「PC1120」がそこに対応できるというところを見せていきたいですね。

西さん

西:おとさんの作品は透明感のある色彩が多いと感じたのですが、ピンクの透き通るような肌っていうのは正直CMYKだけでは再現が難しいところなので、ピンクの特色を使って、ちょっとしたマゼンタが特色ピンクに置き換わることで発色が良くなって、淡いピンクの肌色がきれいに再現できたと思います。ピンクの特色分版は、肌だけでなくお花にもいい影響が出ていたのではないかと思います。

おと: iPadでは画面を見る角度で色味が違ったりするので、「どこを取るか?」といったことでも悩みましたが、肌は特に、何種類も違うパターンを出していただいて比較させてもらいました。その中で、ピンクを入れると格段にイメージに近づくのを感じました。

西:デジタルデータだと色は見る人ごと、それぞれの画面で見たものが正解になるわけですが、それを印刷すると1つの絵になって色が確定するので、それをどれだけ作者のイメージに寄せられるか、というチャレンジをできたのが今回私にとってもいい経験になりました。あと、出力でいうと、特に工夫したのはシールでしょうか。クリアトナーを6回くらい塗って厚盛にしてみました。乗せすぎるとクリアが黄味を感じるようになってしまうので、6回が最適ということで。
また、フィルムを3枚重ねて奥行き感を出して1枚の絵にしたり、作品の上にあえて白のトレーシングペーパーを載せて、そこにホワイトで細いラインを打ったりと、クリエイターさんならではの仕掛けがいろいろあって、そこをうまく表現できたと思うので、ぜひ、皆さんに見ていただきたいですね。


■シャドーボックス作成と本編の後加工

藤井:今回はシャドーボックスに初挑戦しましたが、当初想定していた制作方法だと、A3サイズでは強度が足りないことが分かり、後加工も苦労しましたね。取り仕切ってくださった鎌形さん、いかがでしたか?

鎌形さん

鎌形:私は、「PC1120」の拡販活動の中で、多くの後加工の会社様ともお付き合いをさせていただき、勉強をさせていただいているのですが、今回の企画はなかなか難易度が高かったので、迷わず「プロに相談しよう!」と、日頃からお世話になっている方々に相談しました。表紙のシャドーボックスは、お花の細かいカッティングをムサシさんに、ボックスの加工は千葉印刷さんと高田紙器さんに、冊子になっている作品部分の製本はホリゾンさんにご協力いただき、全体は高田紙器さんが合体させてくれました。
製本ひとつとっても、これだけ用紙がバラバラで、厚みも違って、フィルムも入っていたりすると、一筋縄ではいきませんでしたし、表紙のシャドーボックスは、厚みの出し方、いろいろな角度からの見え方、つぶれないための強度を出すことなど、経験と想像力がないと作れない作品だったと思います。

藤井:私も広報宣伝部でいろいろ印刷物は制作していますが、後加工の工程に立ち会わせていただくことは今までなかったので、とても勉強になりました。特に、クオリティーを担保する部分を任されている後加工の会社さんの責任感と職人魂には、頭が下がるばかりでした。難しいお願いを形にしてくださり、ありがとうございます。
この企画を通じて、改めて印刷会社さん、加工会社さんへの尊敬の念でいっぱいになりました。今後も少しでもお役立てる企画を考えていきたいです。


■おわりに

藤井:最後に、このコラボ企画を振り返っての感想や気づかれたことなどがありましたら、お聞かせください。

おと:はい、やっぱり参加させてもらってよかったと、めちゃめちゃ思っています。正直、最初にお話をいただいたとき、うーん、印刷か……と思ったんですよ。でもお話をくださったのが富士フイルムさんということもあり、印刷にチャレンジしてみる価値は自分にもあるな、と思って参加させてもらいました。実際こうして印刷して、アナログの良さがちゃんと分かるような作品が目の前にあるわけなので、すごく感動しています。自分の中でも、印刷することによってこういうメリットがあるんだと分かり、すごく経験値が上がったし、勉強にもなりました。今までは、印刷したときのことはあまり考えずに、デジタルでだけ見られればいいや、といった感じで色味も決めていましたが、これからは、紙に落とし込んだときの色の変化やCMYKに変換したときのメリットやデメリットを考えながら描くこともできると思うので、そこが一番勉強になってよかったと思います。もちろん作品をたくさん描かせていただいて画力も上がったと思いますし(笑)。

おとさん2

藤井:おとさん、今後、個展も予定していらっしゃるということなので、この『Liberte』以外にたくさんの作品を印刷物に落とし込むことになりそうですね。今回の経験をぜひ生かしていただいて、展示作品を仕上げてください。相談事があればいつでも声をかけてくださいね。『Liberte』をご覧になった方々の感想などもぜひ伺わせてください。今回は、素晴らしいコラボレーション企画になりました。ありがとうございました。
今回のおとさんの作品は、FFGSショールームに常設展示しているので、気になった方は手に取ってご覧ください。

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