老舗和菓子メーカー・梅林堂に聞く
ブランドの個性を引き出すパッケージ戦略(前編)
商品に新たな価値をプラスするRevoria Press PC1120の表現力

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梅林堂様バナー(前編)

 2024年夏、FFGSは、埼玉県の和菓子メーカー・株式会社梅林堂(本社:埼玉県熊谷市本石1-304、代表取締役社長:栗原良太氏)が展開する「若手クリエイター共同制作企画」に参画。商品パッケージの製作に関して、Revoria Press PC1120による出力検証など、技術面でのサポートを行ないました。
 「デザインから生まれる繋がり」をテーマに、160年の歴史を持つ老舗和菓子メーカーが新たな挑戦の一つとして取り組むこの企画。背景にはどんな思いがあるのか。そしてFFGSとの協業ではどのような成果や気づきがあったのか。本企画の推進役である常務取締役・栗原大輔氏、店舗管理部 企画室室長・飯田美枝子氏に語っていただきました。

◎梅林堂 若手クリエイター共同制作企画
 人気商品である『お菓子のまごころ生サブレ やわらかゴールドプレーン』を、より幅広い層に訴求するため、2021年から毎年、パッケージデザインを若手クリエイターと共同制作し、「季節限定パッケージ」として販売している。
・第1弾(2021年) 奥村ゆい氏『夏の花畑』『冬の森とやわらかの木』『ねこの春』
・第2弾(2022年) いえだゆきな氏『夏の一日(ひとひ)』『森のかくれんぼ』『新しい春』
・第3弾(2023年) 大森光太郎氏『ママへのプロポーズ』『ハルのまなざし』『笑顔のプチギフト』
・第4弾(2024年)阿部広夢氏『母性を廻る旅』
 FFGSが参画したのは、アーティスト・阿部広夢氏の作品を採用した第4弾。
 阿部氏の作品は、色鉛筆で描かれた繊細なタッチのイラストで、この作品をパッケージ上でいかにして再現するかが課題となった。FFGSでは、手書きのイラスト原画を高精細にスキャニングできる印刷会社を紹介するとともに、本社ショールーム『Solution Design Lab.』において、栗原常務・飯田氏立ち会いのもと『Revoria Press PC1120』による出力検証を実施するなど、技術的なサポートを行なった。
 第4弾限定パッケージは2024年8月に完成し、同月下旬から梅林堂各店舗で販売された。


“磨き込み”でつねに高みを目指す組織文化

――まず、御社の概要について教えてください。

栗原常務 梅林堂は1864年(元治元年)に熊谷で創業し、今年で160周年を迎えます。当時、熊谷は中山道の宿場町として栄えており、そんな町の人たちにおいしいお菓子を食べてもらおうと、小さなお店を開いたのが始まりです。
 1965年(昭和40年)頃から多店舗展開を図り、深谷、本庄、行田…と、徐々にエリアを拡大していきました。現在は熊谷市の箱田本店を中心に、埼玉県に32店、群馬県に2店、東京都に4店の計38店舗を設けています。
 規模は大きくなっても、「人と人の心をつなげ、その時間を豊かにするお手伝いを」という創業当初からの思いは変わらず、技術や技能の磨き込み、創意工夫を重ねながら、たくさんの方に喜んでいただけるお菓子づくりに取り組んでいます。

栗原常務
栗原常務

飯田氏 いま、とくにご好評をいただいている商品は、2010年から販売している『やわらか』という生サブレで、年間800万枚ほど販売しています。10周年を迎えた2020年に、リニューアル商品として『やわらかゴールドプレーン』を発売し、こちらもおかげさまで人気を博しており、お祝いやご挨拶、手土産など、いろいろな場面で喜んでいただける看板商品となっています。

――美味しいお菓子を生み出し続けるため、何か独自のノウハウや取り組みがあるのでしょうか。

栗原常務 一つ挙げるとすれば、「磨き込み」という組織文化があります。長年にわたって脈々と受け継がれてきた、いわば梅林堂のお菓子づくりの原点とも言えるものです。毎週月曜日の商品開発会議・品質会議での意見交換から始まり、お菓子に使う材料や製法など、さまざまな課題を挙げ、その改善方法を議論し、実践する。その繰り返しで、商品をより良いものに育てていくというものです。

飯田氏 たとえば、塩豆大福のお餅。通常は一度に4升のお餅をついているんですが、これを3升ずつにしたら、さらに弾力が出るのでは? 2升ではどうか? ということを検証するんです。本当に弾力が増して美味しくなるかどうかは、やってみないとわからないし、逆に味が落ちる可能性もある。でも、“もしかしたらちょっと美味しくなるかもしれない”“この方が効率よくできるかもしれない”ということを見つけては、実際にやってみるんです。現状に満足せず、つねに「もっと良くできないか」を考え、トライしてみる。何十年も前から根づいているこの文化が、梅林堂の一つの特色になっていると思います。

栗原常務 お菓子そのものだけでなく、包装フィルムやパッケージなども同じようにトライアンドエラーを重ねながら“磨き込み”を続けています。間違えてもいいからやってみる。間違えれば勉強になりますが、何もやらなければ前に進みません。「寄り道でもいい。失敗を恐れてはいけない。ただし、停滞は恐れなさい」というのが、代々受け継がれてきた教えなんです。

やわらかゴールドプレーン
2020年末に販売開始した人気商品『やわらかゴールドプレーン』

敢えて「伝統」を表に出さず、「まごころ」で勝負

――社員から出たアイデアを否定せずに、まずやってみる、というのは素晴らしい文化ですね。人気商品の『やわらか』も、そのようなプロセスで進化してきたのでしょうか。

飯田氏 はい。材料や製法、個包装のフィルムなど、より美味しくするための磨き込みを重ねて現在の形になっています。パッケージデザインのつくり方も変わりましたね。以前は、いくつかの会社にデザイン案を出していただき、どれが一番かわいいか、一番目立つのはどれか、という感覚で決めていましたが、最近はペルソナやインサイトを考えるところからスタートします。昨年、『やわらか4種ミックス』という新作を出す際にも、どんな年齢層の方が購入されて、どんな場面で使われるのか、それが『やわらかゴールドプレーン』とどう違うのか…といったことをとことん話し合った上で決めていきました。

飯田氏
飯田氏

栗原常務 商品名のショルダー(キャッチフレーズ)も変化していて、これまでは、『心やさしい埼玉のお菓子』『お母さんの心の温かさ』と、母性を表現したものでしたが、現在は『お菓子のまごころ』というショルダーが入っています。埼玉のお菓子メーカーとして、何を訴求したらいいのか、ずっと議論を続けてきた中で行き着いた一つの答えが「まごころ」でした。
 まごころをもってつくり、まごころをもって磨き込みを続け、まごころをもってお店で販売する。これはもちろん、『やわらか』に限ったことではなく、たとえば『あんみつ』は、出来合いの寒天を仕入れるのではなく、大きな鍋で全身を使ってかき混ぜながら寒天をつくるところから自分たちでやっています。また、物流もアウトソーシングせず、工場でできた商品は、毎朝社員が早起きしてお店まで運んでいます。特別なことをしているわけではないけれども、お客さまのために一生懸命やっていることを“まごろろ”と呼ぶのではないか。そしてそれを、もっと表に出してもいいのではないかと考えたわけです。

飯田氏 私どもの最大のアセット(資産)は、やはり創業からの長い歴史、伝統だと思います。伝統は絶対に真似できないものですから。しかし「まごころ」は、伝統とは関係のないものです。その人の「心からの思い」、人間として本能的に持っている優しさ。敢えてその「まごころ」で勝負していこうと決めたのは、梅林堂にとって大きな革新だったと思っています。もちろん、伝統を捨てたわけではありません。「伝統がある」というのはお客さまが感じてくださればいいことで、それをPRポイントにするのはそろそろやめよう。一番わかってほしいのはもっと本質的なこと、まごころではないかと。こうして私たち自身も成長しているところです。お客さまに育てていただきながら、お菓子にも育ててもらっているのかもしれません。


デザインの力で、若い人の心を動かす

――いま展開されている若手クリエイター共同制作企画も、「伝統」「老舗」といったイメージに縛られない、発想の柔軟さ、新しさを感じます。この企画を立ち上げられた経緯について教えてください。

栗原常務 2020年末に、『やわらかゴールドプレーン』を発売したのを機に、もっと多くの方々に『やわらか』を知っていただきたい、いままでと違った層のお客さまにも届けたい、という思いで始めました。

飯田氏 私どものような和菓子屋さんのお菓子を買ってくださるのは、ギフト目的の方が多く、50~60歳代の方が中心です。人にギフトを贈るというのは、家庭を築いていてお子さんもいらっしゃる方が親戚に何か贈るとか、会社で管理職クラスの方が取引先へのご挨拶に持って行くといったケースが多いので、やはり年齢層は高めになります。でも、この『やわらか』シリーズはもっと若い方にも届けたい。そこで、ペルソナを「36歳の主婦、お子さんが二人いらっしゃって、子育て中の方」と設定。そういう方たちに手に取ってもらいやすいパッケージをつくろう、というところからスタートしました。

栗原常務 お願いするクリエイターさんも、20~30代ぐらいの若手で、これから世に出て行こうとしているような方を探して、オファーさせていただいています。このコラボが、新進気鋭のクリエイターさんが羽ばたくきっかけになり、そして『やわらか』をより多くの方に知っていただくきっかけになればと思っています。

――第1弾のグラフィックデザイナー・奥村ゆいさんは、どのような経緯で起用されたのですか?

栗原常務 『やわらかゴールドプレーン』発売の数カ月後、東京ビッグサイトで開催された『クリエイターEXPO』という展示会でお会いしたのがきっかけです。作品の配置・見せ方など、細かいところまでこだわって展示されているのが印象的で、こういう方と一緒につくれば、いいものができるだろうと直感し、声をかけさせていただきました。

飯田氏 奥村さんの作品は、2021年7月に『夏の花畑』という限定パッケージ品として発売し、若い方にも非常に好評でした。ある店舗からは、「『あの箱可愛いから買って!』と彼氏に言っている20代ぐらいの女性がいらっしゃいましたよ」と報告があったんです。そんなことは初めてだったので、常務と二人で「やはりデザインでムーブメントを起こすことができるんだ!」と喜んだのを覚えています。

栗原常務 奥村さんのコラボ作品は冬バージョンもあって、ただ「デザインが可愛い」だけでなく、その中にストーリーを持たせました。それが『冬の森とやわらかの木』という作品で、森の中で『やわらか』の実を食べた親子の鹿が元気に春を迎えるのを待つ、という設定です。

――クリエイターさんと一緒にストーリーから考え、つくり上げていくというスタイルに“進化”していったわけですね。

飯田氏 はい。パッケージから感じられる“まごころ”というところは、梅林堂がお菓子を通じて表したいことなので外さない。その上で、どんなことをデザインで表現したいかというのを、クリエイターさんとじっくりお話ししながらつくっていくんです。その過程も楽しいですよね。
 第2弾のイラストレーター・いえだゆきなさんの作品は、“シゲル”や“さっちゃん”という子どもが登場し、見る方それぞれに物語をイメージしていただけるようなパッケージになっています。第3弾のフォトグラファー・大森光太郎さんは、親子をモチーフにした、初めての写真作品。お母さんに「ありがとう、ママ大好き」と、お花を渡しながら思いを伝える子どもの姿などを描いたものです。

栗原常務 「いままでと違う層にも『やわらか』を届けたい」という思いからスタートしたこの企画ですが、若い方たちにただ「この箱、可愛いでしょ、オシャレでしょ」とアピールするのではなく、そのデザインの背景にあるストーリーまで感じてもらう。そして、デザインをきっかけに会話が生まれたり、人と人とのつながりができたりする。そんなパッケージを目指しています。

冬の森とやわらかの木
夏の一日
ママへのプロポーズ
上から、奥村ゆい氏『冬の森とやわらかの木』、いえだゆきな氏『夏の一日(ひとひ)』、大森光太郎氏『ママへのプロポーズ』

 「若手クリエイター共同制作企画」の第4弾は、アーティスト・阿部広夢氏とのコラボによる『母性を廻る旅』。用紙選定や色再現の検証などで、FFGSが技術協力を行ないました。後編では、実際にRevoria Press PC1120で出力した仕上がりの評価、そしてこの企画で得られた成果や梅林堂社内での変化などについてご紹介します。

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