ウェビナー実施レポート
『経営戦略実践セミナー2021』第三回
経営改革を進める経営者が語る、成長に向けた戦略とアクション

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■丸正印刷株式会社 代表取締役社長・与那覇正明氏
テーマ:
新しいリーダーのあり方を模索しながら、私が取り組む丸正印刷の全社的改革
~第2の危機から脱却し、再び成長軌道に乗せるために~

丸正印刷の概要と沖縄の印刷市場の現状
 私は昨年6月に45歳になりました。2代目の社長として就任してから8年目になります。入社前に、東京と福岡の印刷会社2社に計2年半勤めており、これは非常に良い経験になったと思っています。父は丸正印刷の創業者で、現在会長を務めております。
 丸正印刷は昨年10月に創業55年を迎えました。従業員は203名で、昨年度の売上は27.7億円。2019年度は35.3億円でしたので、前年比21%の減収となりました。売上構成は、商業印刷が約5割、化粧箱などのパッケージ関連が約3割。その他が約2割という売上構成です。グループ会社は当社を含めて8社で、すべて沖縄県内の会社です。印刷会社のほか、広告代理店業・出版業、保険代理業・運送業、お土産品店、チラシ等のポスティング会社などがあります。当社の本社工場は那覇市から西へ約13キロ離れた西原町にあります。営業エリアは沖縄本島・離島を含め、県内全域を営業活動エリアとしており、クライアントのほとんどが沖縄県内の企業です。
 沖縄県の印刷総出荷額は約119億円です。2019年度のデータになりますが、出荷額の半分を3社の印刷会社が占めている状況にあります。

売上が減り始めても変わらない体質
 当社は創業以来、時代の変化と、お客さまのニーズに対応するため、人材や設備に積極的に投資しながら事業を拡大し、売上も右肩上がりという時期が40年続きました。しかし、41年目の2007年から、売上が減少に転じ、創業以来初めての危機に直面しました。
 当時、経営理念や経営方針の実現よりも、売上は絶対的な目標でした。高い目標を掲げ、また、設備や人材を増やすことで、自然と売上が伸びていく状況が続いていたのです。しかし、県内の競合他社との価格競争が激化し、主要な取引先を次々と奪われ、2006年の41億円をピークに、毎年約2億円ずつ、5年間で約10億円も売上が落ち込みました。
 売上が減少し始めても、とにかく目標は高めに設定する、という習慣は変わりませんでした。長年の習慣が会社の体質や社風となり、いまではあり得ないことも、当時は当たり前になっていたのです。
 私は入社当時、営業部に所属し、仕事も売上も増え続けるという時期が数年続きました。しかし、校正や納品の遅れ、品質に対するお客さまからのクレーム、ミスによる刷り直しなども増え続けていました。その後、売上が減少していく中でも、ミスやクレームは減ることがありませんでした。
 売上だけでなく、お客さまの信頼も失っていく。それでも、旧態依然のまま、会社全体が「高い売上目標」に向かっていました。売上至上主義になっていた要因の一つが、会社の物事すべてをトップに任せっきりにしていたことだと思います。そのため、トップが認識していることと、現場で起きていることに大きなギャップがあったのです。
 私は、このままでは取り返しのつかないことになると感じ、売上の減少が5年ほど続いた2011年に、取締役に就任させてもらいました。いま会社が抱えている問題は、営業部だけでは改善できない。全部署を同時に変えていかなければ改善しない。そう考え、社長である父にお願いし、私がすべての部署を管轄することにしました。

自社の状況を客観視するため、同業他社を視察
 しかし、正直、何から手をつけていいのかわかりませんでした。そこで、我々と同じような課題を抱えているであろう企業、その課題の改善に取り組み、成果を挙げている企業を、視察見学させていただくことにしました。
 当社のほとんどの社員は、卒業と同時に丸正印刷で入社しているので、他社の状況を知りません。そのため、自分たちの仕事のやり方に疑問を持たす、当たり前だと思っている人も多くいました。そこで、何らかの気づきを得るために、できるだけ多くの社員と一緒に県外の企業へ視察に行き、収穫を得るように心がけました。
 社員の考えをトップが無理やり変えることはできません。何かきっかけをつくり、それによって変わってもらう。このことを強く意識して社員に声をかけ、2011年から同業・異業種合わせて50社ほどの会社を、100名以上の社員と一緒に視察し、学ばせていただきました。本当に素晴らしい会社ばかりで、気づきや刺激を得ると同時に、皆ショック受け、落ち込んで帰ることも多かったです。他の会社が長年培った技術や仕組みを真似ることは容易ではありませんが、社員と目指すべき方向や改善の目的、目標を共有できたことが、最大の収穫だったと思っています。
 また、視察研修ではなかなか知ることのできない、他社の経営者の考えや実践経験などを、FFGSさんの経営セミナーで学ぶことができました。

社内の組織・設備を次々と変革し、売上回復へ
 社員との視察や研修と並行して、営業が自信を持ってお客さまに提案できるよう、品質と生産性のレベルアップに取り組みました。
 お客さまや営業の目線に立ち、社内の体制強化のために、作業フローを見直しながら課題を抽出し、改善に取り組みました。以前は、作業フローの基本がなく、作業者が物事を判断する基準もありませんでしたが、ワークフローシステムの『XMF』、Japan Color準拠の色基準、そしてMISを導入したことにより、以前より作業フローが見える化し、生産性も上がり、品質も向上。お客さまとの信頼関係も改善していきました。
 また、働く環境や評価制度などについても、視察や研修の中からヒントを得て、少しずつ見直していきました。取り組みの過程で新たな課題も出てきますが、試行錯誤しながら現在も改善を続けています。
 最近では、自主的に行動する社員や、積極的に考えて意見を上司に提案する社員も増えてきており、一人ひとりの仕事に対する意識が変わりつつあると感じています。また、視察研修やセミナーでは、仕組みづくりや業務改善がメインでしたが、その中から、売上を増やすための新規事業のヒントも得ることができました。
 2011年には、Webマーケティングのコンサルを受けたことをきっかけに、印刷受注に繋げることを目指してクロスメディア事業部を立ち上げました。さらに2013年には、新規クライアントの獲得、既存クライアントの満足度向上を目的に、企画提案を軸とした営業のバックアップを行なう営業支援チームを設立しました。
 そして、私が社長に就任すると同時に、新たな事業からの収益創出を目指し、企画開発部を立ち上げました。印刷事業を核とすることに変わりはありませんが、印刷物を取りに行くのではなく、印刷の周辺にある媒体からアプローチし、そこに印刷が付随してくるという考え方です。
 このように、視察や研修を通じて社員の意識が変わり、課題の改善に取り組んできたこと、そして新たな事業にもチャレンジしたことで、少しずつ売上や利益を改善することができました。

企画立案から携わることで、コロナ禍でも受注を確保
 しかし、2年前からの新型コロナウイルスの流行で、沖縄県のリーディング産業である観光産業が影響を受け、我々の業績も大きな打撃を受けることとなりました。観光施設の印刷物、イベントや店舗への集客用広告、そこで配られる販促物、観光客向けのお土産箱など、増え続けていた仕事が激減したのです。
 そこで、これまで培った経験を生かし、企業や自治体のプロモーションに企画段階から携われるよう、事業領域を上流へと拡大する取り組みを強化していきました。当初は、印刷周辺のWeb、動画、イベント、広告媒体などの受注を目指していましたが、それだけでなく、企画の段階からプロモーション全体に関わる戦略へとシフトしていったのです。その結果、企業のプロモーション事業の受託件数が徐々に増えていきました。国・自治体の複合案件も、コロナ前の年度は12件でしたが、今年度は15件まで増加しています。
 自治体の事業に当社が関わった3つの事例をご紹介しましょう。
 一つ目は、世界遺産登録に向けたプロモーション活動です。昨年7月、沖縄県の北部地域と八重山諸島の一部が世界自然遺産に登録されましたが、世界遺産登録までの5年間、当社がその普及啓発活動に関わるプロモーションを請け負ってきました。県の公募で、15~16社の中から大手広告代理店を含めた3社が残り、最終的に受託することができました。印刷会社ならではの企画が評価されたのではないかと思っています。この普及啓発事業では、多くの印刷物を制作しましたが、それだけでなく、奄美琉球の自然を知ってもらうために展示会を開催し、現地での環境学習の企画運営を手がけました。他にも、シンポジウムの運営や、県内小学生を対象とした図画コンクールの開催、その中から選ばれた作品を飛行機やモノレールにラッピングするというプロジェクトも実施しました。また、テレビCMやプロモーションビデオなどにも企画の段階から携わり、撮影や編集もすべて社内のメンバーでやらせていただきました。
 二つ目の事例は、沖縄食文化保存・普及・継承事業です。担い手育成講座の開催、PR動画やレシピ動画の企画制作、伝統的な食文化のデータベース化などを行なっています。
 三つ目は、ヘルスアクション創出事業です。健康づくり普及啓発のイベントや、県民へのヘルスアクションのプロモーションなどを行ないました。
 このように、プロモーション全体のサポートへと事業領域を拡大することで、2014年の企画開発部設立以来5年間で、4億円以上も売上を伸ばすことができました。その中には印刷案件も多く含まれているので、コロナの影響で低迷していた印刷事業の後押しにもつながっています。

DXを軸に、さらなる変革を目指す
 コロナ禍になってからの取り組みとしては、2020年5月、パッケージデザイン強化のため、最新の6色機と、箱を陳列する商品棚を紙ボードで製作するマルチカッティングマシンを導入しました。コロナの影響で観光客が減ったことで、思い描いたような営業展開はできませんでしたが、コロナ禍の収束を見据え、パッケージのデザインや加工、販促商品の強化に取り組んでいます。また、パッケージ単体だけでなく、ディスプレイや、店舗の空間全体の企画提案にも力を入れています。その中で、施設のパーテーションや商品棚などの引き合いもいただいており、少しずつですが実績を重ねています。
 お客さまとのコラボ企画の事例もあります。当社が製造しているパッケージのディスプレイ棚を、県内の商業施設やお土産品店に設置するサービスを、お客さまと共に始めました。設置数が増えることで、商品の購入促進につながり、また我々にとっても、ディスプレイ棚やパッケージの受注がさらに増えることを期待しています。
 このように、「製造・納品して終わり」ではなく、お客さまの商品の販売促進に貢献できるよう、長いスパンで協業していくようなタイアップ企画を今後増やしていき、お客さまと共に成長していきたいと思っています。
 また、今年度は、社内の生産性向上・効率化やビジネスモデルの変革を推進する、DX推進チームという新しい部署を設立しました。まずは情報の共有をテーマに、社員全員がデジタルに慣れることから取り組んでいきます。今後は、データの活用による販促力向上を目指していきたいと思っています。
 最後になりますが、いろいろな課題に対して、根気強く改善の取り組みを続けることができたのは、社員という仲間の支えがあったからだと思っています。会社の風土や体質は一気に変えることは難しく、業績が悪化していた時期には、会社やこの業界に見切りをつけ、辞めていく社員もいました。私自身、落ち込むことや自信をなくすことも多々あります。しかし、いまの社員や、取引をさせていただいているお客さまがいる限り、これからも社員たちや地域のために貢献していきたいと思っています。


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