ウェビナー実施レポート
『経営戦略実践セミナー2021』第三回
経営改革を進める経営者が語る、成長に向けた戦略とアクション

記事をシェアする

経営戦略セミナーレポート第三回_バナー

 富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(社長:辻󠄀 重紀、以下FFGS)は、1月20日、シリーズで開催し好評を博している『経営戦略実践セミナー2021』の第3回目をオンライン形式で実施し、全国から約600名の方に聴講いただきました。
 本セミナーは、「危機からの脱却と成長を見据えて改革のアクションを起こす経営者たち」をテーマに、昨年8月から3回にわたり実施してきたものです。講師は、丸正印刷株式会社(沖縄県)の与那覇正明社長、そして前回に引き続き株式会社エクシート(福井県)の専務取締役・出口淳氏。社員の意識改革や組織の再編といった経営改革をどのように推し進め、コロナ禍という逆境の中でいかにして業績アップにつなげていったのか、じっくりと語っていただきました。また、両名の講演の後には、株式会社エクシートの取り組みや考え方について、与那覇社長から出口専務に質問する形で、より詳細に紹介しました。

出口氏
株式会社エクシート
専務取締役 出口 淳氏
丸正印刷株式会社 代表取締役社長 与那覇 正明氏
丸正印刷株式会社
代表取締役社長 与那覇 正明氏
中林部長
FFGS 営業本部
部長 中林鉄治

■株式会社エクシート 専務取締役 出口淳氏
テーマ:
変革し続ける経営――顧客の発展に貢献する問題解決企業への転身を図る
第3回
未来の環境変化を見据えて起こす次のアクションと戦略構想

コロナショックを克服するための2つの戦略
 今回は、アフターコロナに向けた当社の取り組みについてお話しします。
 このコロナ禍で、オンラインとオフラインの主従関係が逆転しています。これはおそらく元には戻らないでしょう。それによって需要が蒸発したとも言われています。当社も、「カタログは紙じゃなくてPDFでいい」「自社のプリンターで出せば充分だ」という声に心を痛めており、事実、売上はコロナ禍以前に比べて15%ダウンしました。
 とくに大きな影響をもたらしているのが、当社の主力事業でもある「医薬品向けの添付文書」のデジタル化。これまでも、デジタル化の脅威が徐々に迫ってきていましたが、「何とかなる」という意識もどこかにありました。しかし、いよいよそうした甘い考えが通用しない状況になってきました。
 コロナ禍に直面し、あらためて私たちの収益源を工程別に見てみると、「印刷機の大量複製」に大きく依存していたことがわかりました。印刷機械だけでほとんどの利益を生み出していたという事実です。営業は「営業費」を取っているわけではないですし、DTPは労働集約的で赤字体質。製本もDTP同様に収益にバラつきがある。この事業モデルを転換していかなければいけません。たとえば、印刷機の稼ぎが減った分、営業でお金を取れるようにする、DTPでもっと稼げるようにする、製本ももっと生産性を上げる、といったことが必要です。
 この課題に対する解決策として、いま取り組んでいるのが、地元のお客さまに対する存在感をもっと強化しようという取り組みです。70年間培ってきた地元との関係性を活かして、お客さまの課題解決をしていこうと考えています。地元のお客さまは中小企業が多いのですが、抱えている悩みは大きく4つに集約できます。①売上が上がらない、②人が採用できない・定着しない、③戦略が社内に浸透しない、④後継者がいない。こうしたお客さまのお悩みを解決できる会社になることを目指しています。
 もう一つ、当社が直面している課題は、商圏の垣根がなくなりつつあることです。いままで、山に囲まれた福井平野で営業展開していたわけですが、コロナ禍以前は、リアルでセミナーを行ない、そこから仕事を増やしていくという“必勝パターン”がありました。しかし、コロナ禍でオンラインセミナーが普及したことにより、東京に行かなければ聞けなかったセミナーも福井に居ながら聞けるようになり、営業活動も東京からオンラインで行なえるようになりました。地域の垣根がなくなり、ライバルが地元だけでなく東京などにも増えてきたのです。そのため、「地盤を守る難易度」が上がってきています。我々はリアルで“接近戦”ができる強みもありますが、通信環境がさらに進化すれば、越境部隊もオンラインを用いて我々と遜色のない営業活動が可能になるでしょう。より過酷な弱肉強食の世界になっていくわけです。したがって、地元の深掘りだけではなく、我々も越境して全国に商圏を拡大していく必要がある。そこで、2つの戦略を立てて変革に取り組んでいます。
●戦略1…地元の深掘りはこれまで通り進めながら、お客さまの経営課題を解決できる会社を目指す
●戦略2…全国同一商圏の大競争時代に備えた展開

地元顧客のパートナーになるために
 戦略1の具体的な取り組みについてお話しします。
 20年前は、お客さまからの相談は印刷に関することがほとんどでしたが、10年ほど前から、「どの媒体でどう表現すればいいか」といった相談が増えました。そして現在は、お客さまから「会う価値がある」と思われる人でないと会っていただけません。お客さま自身、いま自社で起きている問題の原因がどこにあるのか、わかっていないことが多く、印刷会社には、それを一緒に考えられる営業マンが求められているのです。そのため、当社では、「販売不振」「採用難」などのお客さまの課題に応じたサービスを提供できる体制をつくり、営業マンがしっかり“種まき”できるように教育を強化しています。
 では、「地元の深掘り」という戦略を実現するため、すなわち地元のお客さまのパートナーになるために取り組んでいることをお話しします。
 皆さんは「営業」と聞くと、どんなミッションを思い浮かべますか?私の中では、「営業=セールス」です。営業の生産性を上げるためには、仕事につながるようなキーマンと会っている“有効面談”の時間をいかにつくれるかが重要です。
 しかし、印刷業において「営業」というと、顧客の窓口全般を指すことが多いです。セールスだけでなく、リピート受注の処理や、校正のやり取りなども営業の仕事に入っている。それ以外にも非常に多くのミッションを持っています。その中で、「セールス」でしっかりと売上を伸ばすことが重要と私は考えています。セールスとそれ以外の各機能はそれぞれ似て非なるものなので、しっかり分けて考えようと、社内では話しています。なぜかと言うと、営業マンがこれだけ多くのミッションを持っていると、セールスをしない言い訳になってしまうからです。
 そこで、いま取り組んでいるのが『No-Frillsワークフロー』。余計なサービスをせず、極力セールスに注力するということです。ポイントは、①お客さまに動いてもらう、②セールスができるための組織改革、の2点です。
 ①に関しては、たとえばオンライン発注やオンライン校正などの手順を動画で説明し、お客さま自身で発注・校正を行なっていただけるようにしています。

営業部門を細分化し、機能分担を再編
 ここでは②の社内組織改革について詳しくご紹介します。『スモール・ファンクション』という名称で推進している組織改革です。いままでは、営業には大きく分けてセールスと業務営業、受注後の校正という3つのファンクションがありましたが、これらの機能をさらに細かく分けていく。まずセールスは“先発投手”(企画営業部)とクローザーに分ける。リピート受注のように待っていても入ってくる受注は、新設の“攻めの受注センター”で対応。校正やデザインのプレゼンなどは“クリエイティブクローザー”という部隊が担当しています。そして配達・納品の部隊。という形で、分業体制を敷いています。
 それぞれの職掌ですが、まずクリエイティブクローザーは、営業がしっかりと時間をつくれるようにサポートします。当社はページ物やWebの仕事が多く、校正などに大きな負荷がかかるので、社内からオンラインでお客さまと繋がり、校正の画面を共有しながらデザインプレゼンなどを行なうという役割です。現在、DTPオペレーターが兼任で担当しています。
 そして、「攻めの受注センター」。ここは、“待っていても受注できる仕事”の窓口ですが、名称に「攻めの」とあるのがポイントです。たとえば、お客さまに「昨年はこういう受注をいただきましたが、今年はいかがですか」といったリマインドを中心としたインサイドセールスを行なっています。
 クローザーは『Team NEXT』という名称をつけており、先発投手(企画営業部)から試合を引き継ぎ、締めくくるまでを担当します。主に販促関係を中心に手がけており、プレゼン能力や専門知識が求められるポジションです。社内では“販促の総合格闘家”と言っています。幅広く深い知識習得が必要なので、ここの人材を育てるのは大変ですが、いわゆる“刈り取り屋”としての役割を持たせています。
 そして企画営業部。セールスとして、“種まき”やお客さまの可能性の見極めを職掌とする部隊です。販売不振や採用、事業承継といったお客さまの課題を解決するには、いままでのようなヒアリングでは不充分。より深くお客さまを理解できるよう、解像度の高いヒアリングを行なう必要があり、そこにこだわりを持って取り組んでいます。
 2020年7月からこのような分業体制をとっていますが、形になるまでは非常に苦労しました。ようやく結果が出るようになってきたのは、昨年の10月頃からです。分業によって「営業マン=種まきマン」とするべく、『1日1商談運動』、つまり必ず1日に1件の新しい商談を獲得してくるという活動を展開しているのですが、昨年10月以降は、欠かさず達成できています。いま、徐々に刈り取りのタイミングになってきている状況です。

商圏の垣根がなくなると、競合も増えるが機会も増える
 次に、戦略の2つ目、「全国同一商圏大競争時代に備えて」の取り組みです。
 オンラインによって商圏の垣根がなくなり、全国同一商圏になりつつあるのは、機会が広がっているということでもあります。その中で、当社の強みとしては、SaaS系の代理店商材をたくさん持っていることが挙げられます。代理店事業を手がける中で、いろいろなメーカーさんの“売り方”を見てきているので、それを活かせるのではないかと思いました。
 昨年10月からストックビジネスで原価ゼロという収益性の高いビジネスを目指し、SaaS事業を展開しています。すなわち、クラウド上でソフトウェアをシェアし、皆さんにお使いいただくというビジネスです。具体的には『ラクリエ求人』という採用サイトCMSです。ユーザー自ら採用サイトの作成・更新が行なえ、応募者管理やメール共有なども可能になっています。『Googleしごと検索』や『indeed』などに引っ掛かるため集客力に優れ、自社ドメイン配下にサイトを配置できる、といった他にはない特長を備え、リソースが不足している中小企業にとって使いやすいサービスになっています。

ITはリストラ屋ではなくゲームチェンジャーだ
 最後に、「小ロット時代のスマートファクトリー」についてお話しします。
 当社は長年、地方の印刷市場でやってきましたので、シュリンクするマーケットに対して大きな危機感を持っています。産業のライフサイクルで言うと、印刷産業はいま、残念ながら衰退期にあると思います。ですから、新しい事業以外は、縮小・効率化という戦略は免れないでしょう。このような中で、消極的な縮小ではなく、マーケットが縮んでいくところにどんなアクションを起こして積極的な縮小対応をしていくかが一つの課題だと思っています。
 一方、短納期・小ロット対応が必須なのに、本稼働時間が少ないというオフセット印刷の課題もあります。また、本当に人が行なうべき作業なのか、疑問に思うところもある。いままでの工場・機械・ワークフローでは、人時生産性の伸びしろは少ないと感じています。
 あらためて現状のワークフローを見てみると、お客さまから電話がかかってきて、営業が車で訪問し、面談する。その後MISに入力し、工務が印刷の予定組み・資材手配などを行なう。そこからDTPに進み、校了になっても、人が台割・折り丁をつくり、版面設計・製版し、ようやく印刷に渡るわけです。では今後、お客さまから「100部でいいよ」という注文が入っても、同じフローで対応するのか。そんな問いに直面しているのが現状だと思います。
 そこで、当社では、デジタルプリンティング専用の別棟『デジタルセンター』を新たに開設することにしました。今年秋の完成を予定しており、「クリーン・耐震・エコ・コンパクト・スキルレス」を詰め込んだ空間になります。
 なぜ別棟にするのか。私の考えでは、粗利単価が3万円を割ったら、デジタルのワークフローでないと採算が合わないと思っています。たとえば、DTPの単価が時間5,000円という会社さんは多いと思いますが、あれだけ減価償却負担の少ないDTPで、1時間5,000円。粗利単価が2万5,000円だとすると、5時間しか使えない。しかし実際には、5時間以上かけて社内の人たちが動いているわけです。そんな状況でいかに黒字化させていくかと考えると、IoT、自動化、機械学習といった技術を採り入れて、デジタルファクトリーをつくっていく必要があると考えています。
 今年から、すでに面付けはホットフォルダ運用で自動化しており、印刷機の無人化の検証も現在進めているところです。これは、どうしても避けられない道だと思っています。当社にとってITは、職を奪うリストラ屋ではなく、職種を変えるゲームチェンジャーだと捉えています。実際に、社内では新たな職務・職種がどんどん生まれています。先ほどお話しした『スモール・ファンクション』で生まれたセクションもそうですし、デジタルファクトリーを束ねる人材も必要になります。新たに出てきた職に、いかにリソースを充てられるかが課題になっています。
 今後も、「CHANGE!」を合言葉に、こうした改革に取り組んでいきます。

記事をシェアする

イベントレポート一覧へ戻る