富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社(社長:辻 重紀、以下FFGS)は、印刷業界の経営者向け情報提供の一環として、今年度、シリーズ展開している「経営戦略実践セミナー2021『危機からの脱却と成長を見据えて改革のアクションを起こす経営者たち』」の第2回目を、10月15日、オンライン形式で開催し、全国から約600名の経営層、幹部層の方が参加して、聴講いただきました。
今回の講師は、第1回に続いて株式会社エクシート(福井県)専務取締役・出口淳氏と、新たにお招きした東洋株式会社(北海道)専務取締役・井上雅之氏。当社営業本部部長・中林鉄治の進行により、自社の経営を牽引するお二人に、それぞれが独自の戦略的判断に立ち、リーダーシップをとって推進している、コロナ禍における危機からの脱却を図り、自社を新たな成長軌道へと導くための経営改革の全容をじっくりと語っていただくと共に、出口専務から東洋株式会社の取り組みついての深掘りした質問をしていただき、井上専務にお答えいただく構成で実施しました。
■株式会社エクシート専務取締役 出口淳氏
テーマ:「変革し続ける 経営顧客の発展に貢献する問題解決企業への転身を図る」
【第2回】改革を断行した我が社の現在 ~顧客深耕を目指す、クロスセル戦略と営業改革~
◎「基礎固めの10年」を経て「改革の断行」へ
第1回の講演では、私が帰郷してからの「基礎固めの10年の改革」をテーマにお話ししましたが、今回は、改革後に会社の効率や仕組みがどう変わったのか、「我が社の現在」についてご説明いたします。今回は基礎固めの10年で取り組んできたWeb制作や、マーケティング支援など新たな基盤になる事業をさらに成長させ、より効果的に顧客の深耕を進めていくための、今我々が取り組んでいる「クロスセル戦略」と、その効果を高めるための「生産性向上策」を中心に、営業管理やワークフローの改革、人材育成の工夫などを含めご紹介いたします。
◎CHAPTER1 販売戦略概要
「地元商圏でクロスセル」
いまなぜ「クロスセル戦略」なのか。最大の理由の一つは、地元を商圏にした老舗ならではの弱みを、逆に強みとして活かしていくためです。弊社には70年の歴史があり地元に強固な顧客基盤があるゆえに、ときにはそれが甘えに繋がり、新しいことに取り組もうとしない現状維持のバイアスがかかりやすく、大きな変化への対応が鈍くなる傾向がありました。それならば、無理に新しい事業に挑んで商圏を拡大するより、地元に根ざした顧客基盤を活かして、各社にしっかりと問題解決の提案をして互いの関係性をさらに深め、より多く消費をしていただくような営業をしていくべきではないか。そう考え既存資産である地元顧客への「ローカル型の大接近戦」に徹していこう、という結論に至ったわけです。
接近戦で重要なのは、“お客さま=中小企業の社長さんたち”の懐に飛び込み、切実な課題を正確に把握することです。地元の社長さんの悩みごとは、大まかに言うと、
①売上がアップしない
②いい人材を採用できない、定着しない
③笛吹けど社員が踊らない
④後継者がいない
といった4パターンぐらいに集約してグルーピングできます。「これらの悩みの一つひとつをきっちり解決し、それによって地元に貢献していきますよ」というのが、当社における「クロスセル戦略」の基本的な方向性です。もちろん掛け声だけでなく、お客さまの課題の具体的な解決手段として、採用支援や販売支援なども含め、当社が代理店となる多様な商材を取り揃えています。それぞれのメリットを社長さんにしっかり訴求し、実際に体験価値のアップによってワクワクしてもらい、印刷物の、そして我々自身の存在感を示していく。その積み重ねで、存在感を信頼感へと高め、最終的には「お客さまのブレーンにしていただこう」というのが、当社の目指す「クロスセル戦略」です。
◎CHAPTER2
生産性向上策「①営業管理編」
クロスセル戦略を実施するには自社の営業活動管理の改革が不可欠です。当社では2015年頃からこの改革に着手してきたのですが、出社してから退社するまでの間に営業担当が関わる時間の中身を細かく分析していく中で、儲けを生み出す時間=「付加価値時間」がブラックボックスになっていることに気づきました。営業が、見積作成や校正業務などに忙殺され、なかなか「付加価値時間」に注力できないという現実を目の当たりにしたのです。その最大の原因の一つは、営業が「緊急~非緊急と言う軸」だけで動いていて、組織の中に「重要~非重要と言う軸」がなかったということ。緊急性はあっても重要性の低いタスクに追われている人は頑張っているように見えますが、そこを評価するのではなく、重要な商談をどれだけこなしたかなど、成果に繋がることにどれだけ時間を使えたかを評価していかなければ、いつまで経っても営業担当の生産性は上がりません。そこで大いに参考になったのが、前回の繰り返しになりますが、横山信弘氏の「予材(予定売上材料)管理」という仕組みでした。営業担当の成約率は100%ではないので、失注に備えて「見込み(受注)」「仕掛かり(検討)」「白地(提案)」を積み重ねて保険をかけておくという考え方です。当社では「積み上げた予材の額」を重要視しています。といいますのも、売上や利益はお客さまの営業も受けますので、営業担当でコントロールできる指標の中で、最も成果と関連があるからです。新規案件を増やし予材を貯めてもらうために「1日1商談ノート」という運動もやっています。予材管理で留意すべきポイントは、PDCAのうち、「C」と「A」をきっちり分けるということ。そして過去にとらわれないこと。当社では、「こういう結果だったから次はこうアクションします」というように、会議でもつねにCとAを切り分けて未来志向に徹するようルール化しています。目標必達会議という会議を毎月の月初に開催しています。そこで重要なのは、個別案件の協議ではなく、営業担当が現状の社内加工利益(売上から紙代と外注費をひいたもの)を数値で正確に報告することです。当社の赤字月は1月・4月・8月ですが、固定費は毎月フィックスなので、向こう3カ月の社内加工利益さえわかれば粗利も予測でき、社員は詰めの改善策を実行できますし、経営者は利益の分配を検討することができます。とくに商業印刷メインの会社では今後コロナ禍の影響で赤字月が増えてるでしょうから、より確度の高い「粗利の未来予測」が行なえないと経営が厳しくなっていくのではないかと思います。
◎CHAPTER3
生産性向上策「②ワークフロー編」
クロスセルを推進するには、営業担当が少しでも多く「付加価値時間」を捻出できるよう、できるだけ無駄な作業から解放し生産性を上げていく必要がありますが、その支援のために構築したのが独自のWeb受注システム『Connex』です。このシステムのおかげで、定期物の印刷受注については、お客さまと当社が、営業担当を介さず24時間リアルタイムでやりとりできるようになり、見積や受注受け付け、製造指図書への必要な情報の入力などもこのシステム上ですべて自動化され、進捗・出荷・納期などあらゆる情報を、いつでも誰でもどこからでも確認できるようになりました。その結果、社内的には、営業が本来やるべき、新たな受注を作り出すことに時間をかけられるというメリットが生まれ、そして同時に顧客の生産性アップにも繋がるわけですから、こうしたWeb受注システムの提供は、お客さまにとって一つの体験価値向上にも、つながるのではないかと思います。
営業支援とは少し離れるのですが、ワークフロー改革に関してぜひお伝えしたいのが、XMF(RIP)とXMF Remote(Web校正システム)の活用によって「刷版オペレーター人員の完全ゼロ化」を実現できたことです。現在弊社ではDTP部門とCTPセッターのある刷版室をネットワークで接続し、遠隔操作によって無人でのCTP版出力を行なっています。また、XMF Remoteを使ってDTP担当者全員が制作データを登録し、顧客との校正のやり取りをオンラインで行なっていますので、DTPオペレーター全員が顧客との校正確認業務も刷版出力も担うという、いわゆる職種のボーダーレス化を実現しました。テンプレートで簡単に版面設計などのオペレーションができるXMFですから操作の習得に時間はかかりませんでした。さすがに最初は刷版オペレーターが横に張りついてマンツーマンで指導をしていましたが、退路を絶って覚悟をしてもらうため「半年でフォローをなくすよ」と宣言したら、本当に制作スタッフ全員が半年で面付けやCTP版の出力をマスターしてしまいました。いまはコロナ禍の影響で企業がオンラインやリモートを余儀なくされている感がありますけれど、弊社の場合、北陸なので冬は大雪で社員が出社できなくなることもあり、そんな時はDTPオペレーターがVPN接続で自宅からCTP版の出力を行っています。コロナ禍というよりむしろ雪害対策でテレワークが進んでいるという事情があります。しかし結果としてそれが営業やDTP現場の効率化に大いに役立っているというのも事実です。
◎CHAPTER4
コト売り化実践で気づいたこと
「人材育成について/セミナーについて」
地元商圏で「印刷+クロスセル」を広く深く認識してもらうのに、旧来のルートセールスでは通用しません。何を誰にどうお勧めするか、根性論ではなく理論や実践を、営業一人ひとりが懸命に勉強する必要があります。印刷会社はずっとモノ売り型の受注産業としてやってきたので、自ら商材化し自ら「コト売り化する」というのが苦手なんですね。そこで、経営側がいかに営業担当に勉強をさせるか、いかに人材を育てていくか、ということが重要になってきます。
まず勉強の仕方なのですが、弊社では社内検定制度というのをつくっています。これは独自のマーケティング検定カリキュラムで、正式に労働局に届けを出しているものです。なぜそこまでするかと言うと、勉強というのは重要度は高くても緊急度は低いため、どうしても後回しにする営業担当が出てきてしまうんですね。だから最初に年間スケジュールを確定し労働局にカリキュラム内容や参加予定者を提出してしまい、出席せざるを得ない状況をつくってしまう。そこまでして実施する検定制度ですから、内容は、徹底的に実践重視です。ちゃんとお客さまのところで実践しなければ受からないようカリキュラムを工夫してあります。単なる知識型の営業担当にならないように、という配慮ですね。
こうした人材の育成と並行し、「コト売り化」のための商材の拡充にも、じっくり地道に取り組み続けています。コロナ禍以前から、お客さまの体験価値向上を実現する「コト」として、ブレイク前の新商材をいち早く発信する『マーケネクスト』という体験型イベントを毎年開催していましたし、新商材の中の一つ「マーケティング・オートメーション」についても、まだ誰も知らない頃から、地元・福井の企業を対象に、私自身が講師となりウェブセミナーの形式でご提案していました。
コロナ禍によって、やはり最近はオンラインセミナーへの注目度が高いですね。セミナーを企画するときに大事なのは、お客さまと弊社の利害が一致するかどうかという点。先方はコロナショックでリビルドを求め、こちらはリビルドのためのコンサル支援によって継続的に収益を確保できる、などといった相互メリットです。近頃のセミナーは、とにかくお客さまに自社の問題点を感じ取ってもらいその解決策を提示する、というシナリオがほとんどで、内容的にはWebマーケティングに関するセミナーが多くなってきました。実際のところ、なかなかシナリオ通りにはいかないのですが、この種のセミナーは、すぐに効果が出なくても繰り返しやることでボディブローのようにじわじわ効いてくるものです。提案を継続することによって、地元のお客さまに対する「コト売りのブランディング」にもなりますし、営業担当にとって「こんな訴求の仕方があるのか」という気づきにもなりそれが自らの教育にもなり、何より営業活動のバックアップになる。こういった見えない無形資産みたいなものが価値を持ってくる時代になってきたのだなと、いまあらためて実感しています。
以上、前回の「基礎固めの10年」に続き今回は「現在進行中のクロスセル戦略と営業改革」についてご紹介いたしました。次回は「未来の環境変化を見据えて起こすアクションと戦略構想」というテーマで2022年1月にお話しさせていただく予定です。本日は、どうもありがとうございました。