急速に自動化を進める欧州の印刷業界、そのワケは?

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コラム第17回メイン画像

工場の自動化──。人出不足が深刻な問題となる昨今、印刷業界においても自動化は避けて通れない課題となっています。印刷に長い歴史を持つ欧州も例外ではなく、むしろその動きは日本以上に急ピッチで進められています。
その背景にあるものは何か? 今回、欧州に拠点を置く大手印刷通販会社に話を聞く機会があり、その取り組みを例にあげながらひも解いていきます。

工場が半減する将来、いかに生産をカバーするか

欧州で印刷工程の自動化が急速に進められている背景には、第一に、人件費の高さと厳しい労働時間の制約があげられます。また、現在欧州には11万社以上の印刷会社があるとされていますが(※INTERGRAF調べ)、「近い将来、印刷会社数は大幅に減少し、中でも印刷通販会社は5~6社の大手に集約されるだろう」と先の印刷通販会社は予測しています。印刷物出荷額も減少すると見込まれますが、今よりも少ない人手で市場全体の仕事を回すには、現状以上に効率的な生産体制の構築が必要となるのは明らかです。
そういった状況や危機感から、欧州では自動化によって生産力を補おうとする動きが急ピッチで進められています。

欧州各国の印刷業界の状況

自動化の対象は“全”工程

着目したい点は、全工程での自動化を推進していることです。プリプレスやCTP、印刷機はもちろん、現在はポストプレス工程の自動化が積極的に進められています。
先の印刷通販会社では、常に少ロット多品種のオーダーを大量に抱えており、効率的に処理するため工場の自動化に着手しました。ポイントは大きく2つ。1つ目は、工程ごとの生産効率を最大化するために、生産機器の自動化を進めたこと。
2つ目は、工場ごとの生産効率を最大化するために、国内にある複数の工場は、それぞれ特定の商品の生産に特化させたことです。1つの工場あたり3~5品種に絞ることで、ジョブチェンジの時間を極力ゼロに近づけ、印刷物に応じて工場を振り分けることで、事業の全体最適化を図っているのです。

印刷している画像

さらに、入稿から配送まで全工程で可能な限り自動化を推進している様子です。プリプレス工程では、面付け・大貼り、CTP出力、印刷機への版の搬送を自動化し、印刷工程でも版の装着/脱着も含め極力自動化を図っています。その結果、オフセット印刷機の稼働率は90%を超え、8色機の準備時間は約2.5分というスピードを実現し、CTPは、出力機1台あたり7.5時間稼働して、400版強の刷版を1日で制作しています。
また、ポストプレスの自動化率は65%で、特にセットアップの時間ゼロを目標に掲げています。例えば、「折り機の場合、品種と紙種紙厚によってセッティングを決めたら後は変更しない」「紙種紙厚のバリエーションには、折り機の台数を増やして対応する」といったシンプルな工程管理を徹底しています。
これらの取り組みで生産性は大きく向上し、ピーク時には全工場で1日に約2万件の仕事を受注し、約2.5万個の印刷物を欧州全域に発送しています。また、工場の稼働は1日8時間・週5日を実現。今後はさらに自動化を進め、印刷機2台を1人のオペレーターで稼働させることを視野に入れています。


価格競争から抜け出すために

しかしながら、業界全体の自動化が進み生産効率が飛躍的に上がると、今度は企業間の価格競争が生じます。印刷物のシェアを奪い合うという消耗戦に陥らないためにも、先の印刷通販会社では、「印刷マーケットを広げることが重要」と先を見据えています。
そして、「自動化により効率化とコストダウンが実現すれば、従来では不可能だった価格帯やバリエーションで、高級印刷でも小ロットの提案ができる」と言及しています。つまり、箔押しやニスなどの加工を施した印刷を、小ロットでも通常の印刷料金と同額で提案することができれば、新しい印刷マーケットを創出することができるという考え方です。実際に現在この会社では、20~30%の仕事は新しく生み出したマーケットによるものだそうです。

印刷工場の画像

環境への取り組み

環境への取り組みも、印刷会社にとって大切な課題です。フランスでは政府が環境に関して各種規制を行っており、ガイドラインに沿った製造体制の構築と、印刷物の安全性への配慮が欠かせなくなっています。
自動化により生産効率が向上し、印刷の損紙が減ればCO2の排出量を削減できます。近年の環境意識の高まりもあり、顧客にとっても環境配慮は印刷会社を選定するうえで重要な項目となっています。
さらに先の印刷通販会社では、健康を害する製品を排除するなど、従業員の安全を守ることにも力を入れています。

伐採された木の画像

自動化は印刷業界の一つの転機に

将来、労働人口の減少が明白な日本においても、印刷工程の自動化は生き残りをかけたものになります。また、省人化という面のみならず、印刷会社が発注者のニーズに合わせ最適な納期、価格、仕様などを提案するためにも、フレキシブルに対応できる効率的な生産体制が必要となります。受注型から提案型のビジネスへとシフトして新しいマーケットを創出するためにも、工場の自動化は印刷業界にとって一つの転機となるでしょう。


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