建築分野で期待されるインクジェットプリンター活用

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コラム第16回メイン画像

国内市場の拡大が期待されるインテリア・外装事業。「印刷会社こそがこの市場でアドバンテージを持つ」と語るのは、デジタルプリント壁紙を発明したリンテックサインシステム株式会社の小島一仁代表取締役社長だ。今回は小島社長に、現在の建築関係におけるデジタルプリントビジネス事例から、今後の可能性、さらには印刷会社が同市場に参入する際の強みとポイントを聞いた。

■壁紙、布、ガラス、外装…大きく広がるインクジェットプリントの表現力へのニーズ

現在、日本では、インクジェットプリンターを使った壁紙はまだごく一部だが、近年はその割合が大きく拡大しているという。

リンテックサインシステム株式会社小島 一仁 代表取締役社長「日本では壁紙をはじめとする内装材の需要は約7億㎡あり、その中でインクジェットプリンターを使った壁紙はまだ約1%にも満たないですが、近年、差別化や高級志向の高まりにより、ホテルやレストラン、ショッピングモール、レジャー・アミューズメント施設で使用が増えています」(小島社長、以下同)。
また、一般の住宅でも活用が増えているそうだ。
「デザイナーズマンションがはやるなど、好みに合わせた壁紙、寝具やカーテン、カーペットをトータルコーディネイトで楽しむユーザーが増えています」

最近では賃貸系の会社が空室率改善のためにデジタルプリント壁紙を採用するなど、デジタル印刷を活用したビジネスチャンスは大きく広がっており、背景には、グラビア印刷やスクリーン印刷等、従来の方式にはないデジタルの強みが生きるインクジェットプリンターの4つの特長があるからだという。

1.NO REPEAT
壁紙、カーテン、カーペットなどは、従来方式では印刷版の関係で尺の決まった連続柄のみだったが、50mの不連続柄も可能で、版の限界寸法に制約されない。
2.NO COLOR LIMIT
4色+特色というフルカラーでの表現ができる。
3.NO DESIGN LIMIT
不連続柄のデザインや写真画像、グラフィック画像等が表現できる。
4.NO MINIMUM 
1mから製造可能で在庫負担が少なく、テスト印刷や小ロット印刷に容易に対応できる。

従来、建築関係の印刷では、デザインやカラーに制約があり、写真をはじめ高度なグラフィック表現は難しいとされていたが、インクジェットプリンターがそれを可能にした。
「インクジェットプリンターであれば、トレンドに対応した最新のデザインを小ロットから作成したり、多様化するニーズにも応えることができます。さらに、壁紙のみならず、サイン・ディスプレイや建装材などの多様な素材に対応でき、短納期で高品質、高耐久な印刷が可能なUVインクジェットプリンターは、今後さらに建築・建材市場での活用が広がっていくと確信しています」
また、素材の中ではガラスに注目しているそうで、飛散防止や紫外線カット、断熱などの機能を付加するためのガラス用フィルムにワイドフォーマットUVインクジェットプリンターでデザインを印刷するそうだ。
「ガラスにアーティスティックな魅力を加え、室内や街の雰囲気も演出するなど、新しいステージでの展開が可能になります。街中のビルでもガラスカーテンウォールの建物が増えていることも追い風になっています。フィルムへのプリントなら、ガラス自体の加工よりぐっと費用が抑えられ、短期間での模様替えもできるため、今後需要は伸びることでしょう。
さらには、カーテンや寝具、カーペットなど、布類への活用も広がります。こちらはB toCでの展開もしやすく、印刷会社は参入しやすいかもしれません」

ガラスフィルムに色鮮やかなビジュアルがプリントされた同社ショールーム
ガラスフィルムに色鮮やかなビジュアルがプリントされた同社ショールーム
大きな壁紙への絵画のような繊細な色表現や、ガラス用フィルムにより、すりガラス風や凹凸のある透明プリント、カラーグラデーションなども自在に表現できる。
大きな壁紙への絵画のような繊細な色表現や、ガラス用フィルムにより、すりガラス風や凹凸のある透明プリント、カラーグラデーションなども自在に表現できる。

■印刷会社ならではの基材に合わせた色管理やデジタルデータ処理技術が武器に!

インクジェットプリンターを活用した建築関係のビジネスは大きな成長が期待されているが、印刷会社の持つ技術を生かせる領域だと小島社長は語る。
「建築関係のビジネスは、印刷会社のコア技術である、基材に応じたデジタルデータ処理技術や色変換技術、画像形成技術が生かせる領域だからです。例えば、UVインクジェットプリンターを使えば、雑誌広告で使ったデザインデータを、壁紙にも、ガラスにも、カーテンにも、さらにはバスや電車のボディにも使うことが可能ですが、このように『ワンデータのマルチアプリケーション展開』では、印刷会社の持つデジタルデータの処理技術が武器になります」

■建築ビジネス市場参入に成功する印刷会社のポイントとは?

すでにこの領域に進出し、ビジネスを拡大している印刷会社もあるが、それらの企業に共通しているのは、ワイドフォーマットプリントの多用途への活用を前向きに捉えていることだそうだ。
さまざまな他分野への広がりが可能な技術のため、なにより経営者の方ご自身がこの広がりをビジネスチャンスととらえ、積極的に取り組んでいるかがカギになります。市場をパースペクティブに見て、担当部署に一任せず自らが入りリーダーシップを発揮していることがポイントです。
もちろん、従来のお客様の仕事の掘り起こしは重要ですし、新規用途の提案型営業や異業種とのネットワーク構築も必要になります。内装関係で言えば、施工会社やインテリアコーディネイターといったパートナーとの連携にも興味を持って進めていくことも大切です」

同社がライセンスを持つ国内外の芸術作品の数々を壁紙やパーティションなどで大きく楽しめる
同社がライセンスを持つ国内外の芸術作品の数々を壁紙やパーティションなどで大きく楽しめる

■差別化、ユーザー意識の変化、DIY…まさに“これから伸びるしかない”高付加価値市場

近年増えているデザイナーズホテルやデザイナーズマンションでは、デジタルプリント壁紙の活用が増えており、また、賃貸住宅では、他の物件との差別化を目的として、部屋の価値を高めるために、アニメやスポーツチームのビジュアルでコーディネートされたユニークな部屋まで登場しているそうだ。
「世界では、ヨーロッパや中国を中心に、デジタルプリントを活用してインテリア商材を制作するメーカーや販社も急増しています。日本には、白い壁という文化が残っていましたが、近年は日本でもデジタルプリント壁紙が活用され始めています。また、DIY市場も伸びており、女性を中心にデジタルプリント壁紙を自分で購入し、貼りかえるユーザーも現れています。
このようにユーザーの意識は着実に変化してきていますが、日本は海外に比べまだ黎明期といえる状況で、成長期にある海外市場を見ると、まさに“これから伸びるしかない”市場なのです」
今後市場が拡大する中で、色彩や画像へのこだわりは業種やクライアントにより、重要な差別化のポイントとなることが予測でき、それはプリンターの表現力で決まると小島社長は言う。
「当社は、富士フイルムがワイドフォーマット市場に参入された当初からお付き合いさせていだいていますが、富士フイルムの持つ写真形成加工技術や画像処理技術、カラーマネジメント技術はこの領域でも大きな強みになると感じています。また、富士フイルムがインクジェットプリンターに関連する、インキ、ヘッド、画像処理のすべてを開発していることも強みです。これらの技術を結集して、さまざまな基材に、高精細・高画質のデザイン表現を耐久力のある高品質プリントで実現できることは、印刷会社のビジネスに大きく貢献すると思います。さらに、そのカラーマネジメントやワークフローシステムは間違いなくワイドフォーマット市場でも効果的に活用されていくでしょう」

同社で稼働している富士フイルム社製ワイドフォーマット UVインクジェットプリンター「Acuity LED 1600R」
同社で稼働している富士フイルム社製ワイドフォーマット
UVインクジェットプリンター「Acuity LED 1600R」

一般の消費者には、ワイドフォーマットプリントはまだ馴染みが薄いが、今や、スマートフォンで撮影した写真を大きな壁紙にできるなど、これまで想像もしていなかったことが実現できることが伝われば、自分の夢見るインテリアを形にしたいというユーザーが多く存在するはずだと小島社長は語る。
「ご自分の撮影した写真やペットの写真、また、ご自分が書いた絵画・書などをワイドフォーマットプリントで大きく拡大して壁紙やガラスフィルムに加工するといったことも可能です。ぜひ、グラフィックビジネスを支えてきた印刷会社の皆さんに、ワイドフォーマットプリントの魅力を広める役目を果たしていただけたらと思います」


リンテックサインシステム株式会社(東京目黒区)
http://www.sign-japan.com/
株式会社積水化学工業のサイン・グラフィック・インテリアビジネスの関連会社として1993年4月設立。2008年11月から、リンテック傘下となり、世界初のデジタルプリント壁紙「プリンテリア®」をリンテック株式会社から受け継いで、「アートと壁紙の融合」「古いドアの画像壁紙」など、新しい発想の商品を次々と生み出している。
また、全国のデジタルプリント機器を持つ業者とネットワークを組み、プリントから施工までを請け負うサテライト制を構築してデジタルプリント壁紙の普及を推進している。

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