「ITと印刷の未来」第1回
ITとの親和性を高めることで、印刷の未来が広がる。ポイントは「やる気」と「外部企業活用力」

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 印刷会社がデジタルを活用した販売促進ツールをクライアントへ提供するためのシステムなどを開発・提供する株式会社ウイズ(大阪本社:大阪府大阪市西区土佐堀1-4-8 日栄ビル6階)様は、企画・営業などを支援する運用サポートも合わせて提供することで、システムの受注を拡大しつつ印刷会社の受注件数増大にも貢献しています。今回「ITと印刷の未来」をテーマに、印刷ビジネスの成長につながるヒントなどについて、同社 常務執行役員・老田 歩氏に富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社(FFGS)広報宣伝部 部長 前田 正樹が伺いました。

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左から、FFGS 前田、株式会社ウイズ 老田役員

金融機関向けシステムで培った開発力と、販売促進のノウハウを掛け合わせたシステムを印刷会社に提供

前田:まず、御社の概要や老田様の経歴などについて教えてください。

老田役員:ウイズは、1996年創業のソフトウエア開発会社です。ある外資系コンピューターメーカーで西日本の金融機関向けソリューションの責任者だった当社の現会長が立ち上げました。主に企業の基幹システム、業務システム系を手掛けてきたのですが、時代の流れに合わせてホームページなども手掛けるようになり、事業範囲・得意分野も広がりました。
 ウイズには、3社のグループ会社があります。1社は、主に店舗などBtoB系の不動産を手掛けるウイズトラストという不動産会社。2社目はマノメイドという会社で、空間デザインやプロデュース、ブランド立ち上げなどのサービスを提供しています。3社目は、兵庫県川西市で農業をする会社です。これは、純粋に生産者として農業に携わるのと同時に、地域のプロモーションと活性化を実証することも目的としています。

老田常務1

 僕は、2010年にウイズに入社しました。前職では、大手住宅総合メーカーや大手トイレタリーメーカーなどのWeb戦略立案・実践などをお手伝いしていました。当時、その大手トイレタリーメーカー様はテレビCM全部止めて、Webなどへの切り替えを進めていました。僕はそのディレクションをやらせていただいていて、企画を立案したり戦略を策定したりしながら、必要となるものの制作にも従事していました。
 ウイズには、そういった自分がもともとやってきたことを持ち込んだ形でした。現在は、決して障害を起こすことが許されない金融機関システムを開発してきたウイズの強みをバックボーンとして、自分たちのノウハウを結集した販売促進システムを開発・提供しています。


印刷物と親和性の高いARで印刷業界へ参入

前田:金融機関向けシステムを得意とする御社が、印刷会社様向けに、デジタルを活用した販売促進ツールをクライアントへ提供するためのシステムを手掛けるようになった狙いや経緯をお伺いできますか。

老田役員:ウイズに入社してすぐのタイミングで、僕が主導して印刷会社様向けのイベントに初めて出展しました。当時、印刷は減少傾向にありましたが、インターネットでは今まで想像もしなかった世界が始まろうとしていました。印刷物とインターネットの間を橋渡しすることで、生き残りをかけてさまざまな可能性を模索する印刷会社様のお役に立てるのでは、と考えました。
 最初の出展内容はSEO(検索エンジン最適化)だったのですが、来場されたある印刷会社の社長様から「お前は敵だ」と言われたりして、「なかなか敷居が高いな」と思いました。しかし翌年も出展し、今度はAR(拡張現実)をご提案しました。ARがはやり始めていたことに加えて、ARを使うことで印刷物に仕掛けたコンテンツの視聴率が取れることから、印刷会社様との親和性も高いと考えていましたので。
 制作したDMやチラシのレスポンスが悪かったら、「印刷物が悪い」と言われることもあるかと思います。しかし、ARを使うことで「お客さまは興味を持って印刷物にスマホをかざして商品をカートに入れたけど、決済方法選択画面で離脱した」ということも見えます。印刷物を正しく評価していただくためにもARを使いましょう、といったお話をさせていただいたところ、印刷会社様からお声がけいただけるようになりました。

前田部長1

前田:御社は、システムの保守ではなく「運用サポート」という形で印刷会社様のシステム導入・活用を支援されているのが特徴的です。その運用サポートについて、詳しく教えていただけますか。

老田役員:ARをきっかけに、多くの印刷会社様に僕らのシステムをご導入いただいたのですが、導入したことに満足して実践では使いこなせていないケースも多かったんです。これはまずい、受注産業型(受け身の営業スタイル)の印刷会社様は、新しいサービス分野の提案営業が苦手で、このままではシステムは売れても導入企業の新規受注・成果につながらない、と思いました。そこで、当社としても、システムの販売本数を増やすのではなく、導入していただいた企業様が受注件数を増やすためのサポートをしようと、目的をシフトしたんです。そのために、エンジニアの役割をシステムの保守ではなく運用サポート、印刷会社様の企画や営業などの支援へと切り替えました。
 現在、印刷会社様向けの運用サポートチームには約20名が所属していて、その多くがエンジニアで、営業とプランナーが少人数います。エンジニアは、バグのないシステムを作ればそれでよいというわけではなくて、お客さまと日頃から接することでお客さまにリアルに起きていることを自分たちも経験し、一緒に課題を解決することが求められます。お客さまのサポートをしていると、市場の傾向って見えてくるんですよね。例えば、去年でしたらキャッシュレス化や生徒手帳のアプリ化などの案件、地域振興券の電子化のお話も多かったです。こうした情報を、必要とされるお客さまにご提供したりもしています。また、企画書やプレゼン資料などをお客さまの代わりに作ったりもしていて、それをライブラリ化して、お客さまに使っていただく仕組みも作っています。
 今年7月からは、Webサイトのセキュリティに脆弱性があり情報漏えいリスクの高い企業を印刷会社様が簡単に抽出し、改善提案を行えるパッケージの提供も開始しました。これは、サイトリニューアルと比較すると安価で、しかも印刷会社様の営業さんが自分で実施できるパッケージです。このパッケージをきっかけにして成果を出されている印刷会社様も、順調に増えています。

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中小印刷会社のIT活用成功のポイントは「やる気」と「外部企業の活用」

前田部長2

前田:老田さんから以前お伺いした「ITは、インターネットテクノロジーではなくて、インフォメーションテクノロジーの略ですよ。印刷物もまさに“インフォメーション=情報”を伝えるもの。まさにITですよね」というお話が、強く印象に残っています。私は、この考え方を印刷会社様、特に中小規模の会社様に広めていきたいと思っています。印刷会社様の中には「ITと印刷は別物」だと考えている方も多くいらっしゃると思いますが、「同じITだ」と捉えると違う見方・新しい発想が出てくると思うんです。
 御社ユーザー様の中にも、中小規模の印刷会社様でスマホアプリなどデジタルを活用したサービスをうまく企画・提供されているところもあるかと思います。その成功のポイントは何でしょう?

老田役員:「やる気」だと思います(笑)。従業員数10名以下でも、僕らの仕組みをうまくご活用されている印刷会社様はたくさんいらっしゃいます。例えば、製造部門は持たずに営業中心で展開している会社様では、性質的に割と器用な営業様が多くて、ITを活用したサービスも顧客にうまく提案しています。また、家族経営で印刷機も動かしていて、多忙だけれど僕らと組んでIT活用も提案していきたい、という会社様は、社長様が積極的に僕らと一緒に動くパターンが多いです。既存のお仕事や工場は他のスタッフにお任せして。中には、もともと仲間仕事を中心にしていた小規模の印刷会社様が、ITを活用したことでクライアント様のお仕事をガンガン受注できるようになったという事例もあります。仲間仕事だけだとこの先厳しくなりそう、ということで、仲間から受注している印刷物の効果を測定できるデジタルの仕組みを取り入れて、そこで蓄積した経験を基にクライアント様に直接提案できるようになったということです。

前田:そうした印刷会社様では、御社の支援を受けてITの知見を蓄積されたのですね。印刷会社様が、デジタルを活用したサービスを企画・提供できる人材を自社内で育成することは可能だと思われますか?

老田常務2

老田役員:まさに鶏と卵の話で、現在できていないことを、教育したり評価したりする仕組みを作るのは大変なことです。印刷会社様がデジタルの知見を得るためには、「会社を買収する」「人材を採用する」「外部の企業を頼る」のいずれかのパターンになるのではないかと思います。このうち、会社の買収や人材の採用はリスクが大きいことから、僕は外部の企業を頼ることをお勧めしています。
 例えば僕らの場合ですと、作業ボリュームを基にフルタイムのパートさんを雇うぐらいの料金を設定しています。ランニングで掛かるコストですから、一見すると相当重たく感じると思います。しかし、会社を買収したり人材を新たに採用したりするコストやリスクを考えると、そんなに高くない、それどころか安いと思っています。期間を決めた契約ですし、立ち上げの段階で目標や評価の方法を互いに可視化した形に設定できます。また、それで得たデジタルのノウハウを吸収して、社内に蓄積することもできます。ノウハウがたまれば、社内の人材教育やサービスの企画・提供にも取り掛かれます。ぜひ、外部の企業を頼ることも積極的にご検討いただければと思います。


販売促進系IT企業として、印刷会社のITとの親和性向上を支援する

前田:最後に、御社の今後の展開についてお伺いできますでしょうか。

老田常務3

老田役員:僕らは販売促進系IT企業として、お客さまの販売促進の頭脳にならないといけないと考えています。そのためには、マーケットで起きていることをリアルタイムに観測・観察して次の一手を打つ、というPDCAを細かく刻んで回していく。その飽くなき追求をしていきたいと考えています。
 そして、同じ方向性を志向している印刷会社様と、一緒に挑戦できたらいいなと。僕らは割と身軽で、多分印刷会社様より動きやすいんですよね。だから、先にマーケットの状況を確認する動きもできるので、一緒に取り組める環境を提供できると考えています。そのためにも、今後は自分たちも、新しいステージへとステップアップしていきたいと思っています。現在取り組んでいる農業についての新たな取り組みも、いろいろと面白い展開が生まれ始めています。今、一気にいろんなものがそろいつつあるので、きちんと整ったところで印刷会社様にお声がけして地域を盛り上げる。そこには、印刷のお仕事も自然とたくさん生まれますので。そして、これは、いろんな地方にも横展開できると考えています。

前田:お話を伺っていると、御社と印刷会社様がやられていることは、根っこの部分で実は一緒だと分かりました。共に、クライアント様・発注主様がプロモーションをうまく回すことで成長したり売上を増やしたりすることにどう貢献できるか、お手伝いできるか、というスタンスでお仕事をされている。御社はシステム系、印刷会社様は印刷物を製造することと、強みはそれぞれ異なりますが、お互いの親和性は高そうですね。

老田役員:本当にそう思います。同じ動きができている印刷会社様でしたら、ITと親和性の高い印刷物を企画していただいたり、逆に印刷物と親和性の高いシステム開発をこちらが提案したり、スムーズに行うことができます。印刷物単体で考えず、そういう動きを通じてお客さまのお役に立てる会社になっていくことが大事です。僕らとしても、もっとその支援ができるよう頑張っていきたいと思います。


■企業情報
株式会社 ウイズ
住所:大阪本社 大阪市西区土佐堀1-4-8 日栄ビル6階
設立:平成8年(1996年)1月
URL:https://www.wiznet.co.jp/

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