新 今さら聞けない印刷の基礎知識⑤
デジタル印刷の基礎知識

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今さら聞けない印刷の基礎知識④ では、オフセット印刷の基礎知識をご紹介しました。今回の第5弾では、近年の小ロット・多品種化に対応する手段のひとつとして導入が加速している「デジタル印刷」の基礎知識についてご紹介します。


デジタル印刷の印刷方式

デジタル印刷の印刷方式は、一般的に「電子写真方式」と「インクジェット方式」の2つが主流となっています。

1. 電子写真方式
電子写真方式は、粉末状のトナーを帯電させたドラムに付着させて画像を形成し、紙などの印刷媒体へ転写することで印刷する方式です。電子写真方式の印刷プロセスは次のとおりです。
①帯電…コロナ放電により、感光体ドラム表面にマイナスの電荷の均一な膜を作り、帯電させます。
②露光…半導体レーザーを電荷の膜に照射することで、光を当てた部分を相対的にプラス電位とし、画像(静電潜像)を形成します。
③現像…露光された静電潜像上にトナーを付着させます。トナーは相対的にプラス電位に変化した静電潜像部分に引き寄せられ、マイナス電位の部分では反発します。
④転写…トナーを紙などの印刷媒体に転写します。
⑤定着…熱・圧力を用いて印刷媒体にトナーを定着させます。
その後、ドラムはクリーニングされ、次の印刷に備えます。

図版1

2.インクジェット方式
インクジェット方式は、微細なインクを直接紙面に打ち出す形で画像を形成します。
ノズルからインク滴を吐出させる方式の代表例が、ピエゾ式とサーマル式です。ピエゾ式は電気、サーマル式は熱を用いてインクを吐出させます。どちらも吐出するインク滴のサイズを都度変更できるため、高精細な画像を印字できます。

図版2

プリントヘッドはインクの吐出量をコントロールし、ムラやモアレが見えないように可変(バリアブル)ドットで吐出します。画像処理ソフトやプリンターの制御方法により異なりますが、基本的にはプリント前にどの順番でどのサイズの吐出を行うが決定されており、プリントヘッドは送信される信号により制御されています。

図版2

インクには染料系インクと顔料系インクがあり、画像膜の形成方法に特長があります。染料系は、基材へ浸透し、自然乾燥により定着しますが、顔料系は基本的に基材へ浸透しないため、定着剤を用いて表面に画像膜を定着させます。
以下の図はインクを硬化・定着させるための方法を簡略的に示したものです。顔料系インクのうち、水性や溶剤、ラテックスを用いたインクは、基本的に熱を中心に用いて硬化させ、UVインクは紫外線照射によって溶媒であるモノマーが重合、膜を形成することで硬化させます。

図版4

下表は主要なインクジェット方式と、インクの種類をまとめたものです。どれも一長一短あり、用途に応じて使い分ける必要があります。

表組

急速に導入が進むデジタル印刷

オフセット印刷とデジタル印刷の主な違いに、「工程」と「必要とされる技術の習熟度」があります。
前回の記事で紹介したオフセット印刷は、インクを版から紙に転写します。大量の印刷物を効率的に印刷できる反面、製版作業や機材メンテナンスに時間やコストが掛かり、小ロットの印刷には向いていません。
一方、デジタル印刷はこの製版工程が不要なうえ、近年、印刷品質の再現性や安定性が向上したことにより、これまで品質の問題でオフセット印刷しかできなかった印刷もデジタル印刷で十分対応できるようになりました。
加えてデジタル印刷は、オフセット印刷と比べてオペレーションの習得が比較的容易です。そのため昨今の人手不足に伴うオペレーターの高齢化や技術継承などの問題の解決に寄与するものとして、オフセット印刷から仕事の移行(トランスファー)が急速に進んでいます。

図版5

デジタル印刷の将来

これからの時代、IoTやAIの活用がさらに進み、印刷の製造工程でも自動化や最適化が実現することで、多様化する発注者のニーズにより高度に対応した印刷物の製造が可能となり、印刷物の小ロット化はさらに加速していくと予測されます。エコロジーやサステナビリティの観点からも、小ロットの印刷で時間や資材の無駄をより少なくできるデジタル印刷は、今後さらに注目されると思われます。

以上、「デジタル印刷の基礎知識」をお届けしました。
この記事でデジタル印刷の知識が深まり、皆さまの業務の一助となれば幸いです。

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