M&A先の社員が辞めないのは「会社が良くなる」と確信できるから
中林 服部プロセスグループ各社で注目すべき点は、驚異的な営業利益率です。10%程度は当たり前で、15%を超える会社もあり、印刷業では他で聞いたことのないような営業利益を出しています。服部社長の経営手腕が最も評価されているポイントでもあると思います。
服部社長 営業利益を高める方法は、皆さんご存じのように、「価格を高く設定して付加価値を高める」か「原価を下げる」、この2つしかありません。服部プロセスグループは全国に100人くらい制作スタッフがいますが、その全員が他社制作部門の2倍~3倍の生産性を実現しているのではないかと思います。つまり、制作に関わる時間は他社の半分から3分の1程度しかかからないので、制作にかかる原価を低く抑えることができているのです。
中林 生産拠点を神戸と姫路、大阪に集約したことも、原価低減につながっていますよね。
服部社長 そうですね。M&Aした東京の印刷会社さんが所有していた設備は、私から見て競争力のあるものではなかったので、すべて廃棄しました。また、東京で印刷工場を持つと、高い家賃が発生し、納品のための車を所有する必要もあり、費用がかさむので、東京にはできるだけ工場を持たないことにしています。それに、東京であれば、急ぎの仕事が入っても、対応してくださる印刷会社さんはたくさんありますしね。
中林 服部プロセスグループでは、効率を追求するだけでなく、付加価値を高める取り組みも積極的に進めていらっしゃいますね。営業個人任せではなく、営業が提案しやすい商材、売れる商材を開発して、服部プロセスグループに入った企業がすぐにそれらを販売できるようにしている。
服部社長 効率を高める仕組みづくりは本社で頑張るので、営業面では、我々がいま持っている財産をうまく活かし、「いかに提案し、売るか」ということに専念してほしいと考えています。
中林 ところで、服部さんがM&Aした会社では、それまで勤務されていた社員さんが辞めずに、新しいやり方をすんなりと受け入れて、仕事を続けていますよね。これもすごいことだと私は思っています。M&Aで経営が変わると社員が辞めてしまうケースも多いと聞きますが、服部プロセスグループでは、なぜそれがないのでしょう?
服部社長 当社がM&Aを行なうのは、業績が悪くなっている会社です。だから「これから良くなる」との希望を持つことができれば、辞めることはない。我々の仕組みを教えると、「これなら早くできる」「これならもっと台数をこなせる」と理解してもらえます。こういうことが腹に落ちてくれたら、会社の将来が見えてくると思います。
また、待遇面も良くなります。基本給はそれほど変わりませんが、以前は経営が厳しく、賞与も出なかったという会社も多いですから、賞与は出来るだけ大きく増やすようにしています。これは社員にとって一番わかりやすいですし、モチベーションにつながりますよね。
中林 会社が良くなることへの期待感と待遇の改善、この2つが理由なんですね。最後に、M&A先として会社を選ぶ際の選定基準、実際にやるかどうかの判断基準などがあれば教えてください。
服部社長 選ぶというよりも、先方からお話をいただくケースばかりなので、そのお話に乗るか乗らないか、ですね。乗る場合の判断基準は2つあります。一つは、当社の仕組みを持ち込んで定着させられるかどうか。たとえば、パッケージ印刷の会社とかシール印刷会社、あるいは輪転印刷会社のM&Aのお話をいただいても、当社の仕組みは適用しにくいので乗りません。
そして、もう一つ重要なことは、「良いクライアントを持っているかどうか」です。良いクライアントをお持ちなのに、上手く経営できていない会社さんの場合は、経営を良くすれば、必ず良い結果が出るようになります。「クライアントの良さ」と「経営状態の悪さ」のギャップが大きければ大きいほど、M&Aの成果が大きくなります。
中林 ありがとうございました。第1回のお話はここで終了とさせていただき、次回は、服部さんがM&Aによる成長戦略を確立していくきっかけとなったM&A案件にどのように取り組んで行かれたかについて、さらに詳しくお聞きしたいと思います。M&Aを決断するに至った経緯や、企業再生の成功のポイントなども含めて、お話を伺えればと思っております。次回もよろしくお願いいたします。