新聞用完全無処理CTPプレート「SUPERIA ZN-Ⅱ」導入事例
読売新聞社が、2018年夏から、東京・江東区の木場工場を手始めに計3工場で合紙レス新聞用完全無処理CTPプレート『SUPERIA ZN-II』を導入した。同社は2015年から今年にかけて『SUPERIA ZN』を9工場に導入しているが、今後、『SUPERIA ZN-II』への移行とともに無処理化を進めていく。ZNによる無処理化で得られた効果や、ZN-IIによる新たなメリットなどについて、読売新聞東京本社制作局技術二部主任・永田史樹氏、木場工場(株式会社ミナト)取締役工場長・茂木伸之氏に伺った。
■ 導入背景|業界に先駆けて無処理化に着手
読売新聞社は、2011年頃から富士フイルムと共同で新聞用完全無処理CTPプレートの実用化に向けた取り組みを進め、木場工場や東京北工場でのランニングテストを経て、2015年に『SUPERIA ZN』として完成、実運用を開始するに至った。業界に先駆けて無処理化に着手した背景には、CSRの観点から「環境に配慮した生産工程」を目指していたことに加え、現場からの要望もあったという。
「どの工場でも、製版工程では“いかに現像廃液を削減するか”が大きな課題になっており、オペレーターからも、作業性などの面で無処理プレートを望む声が多く上がっていました。また、当社はCTPによる製版工程の自動化をいち早く実現した実績もあり、無処理化も、他に先駆けて進めたいと考えていたのです」(永田主任)
新聞業界初の完全無処理CTPプレートの実用化。この成果が評価され、読売新聞東京本社は、2015年度新聞協会賞技術部門を受賞した。本格導入から約3年の運用を経て、どのようなメリットが得られているのだろうか。永田主任はこう語る。
「現像処理がなくなることによって、液交換や廃液処理にかかる作業負荷・コストの低減、環境負荷の削減といった効果は期待通りですね。現場にとっては、メンテナンスなどの手間がかからなくなったことが、日常運用における大きなメリットになっています」
『SUPERIA ZN』の耐刷性、印刷立ち上がり、紙面品質、汚れにくさなどは、「従来から使用している有処理プレート『HN-NⅤ』と同等の性能」(永田主任)と評価。また、導入前の懸念点であった版面の視認性については、版情報をインクジェットプリンターで印字することでカバーできており、機上現像の輪転機への影響は、現在まで表われていないという。
「現場では、印刷を開始するまで現像されないことへの不安はあったようです。ただ、3年間運用する中で、そうした不安は払拭されていると思います。キズなどのトラブルも軽減されており、有処理プレート以上の信頼性を感じております」(茂木工場長)
「輪転機への影響については、富士フイルムさんに協力いただき、機上現像で溶け出した成分が悪影響を与えないか、慎重に検証し、問題ないと判断したうえで導入しました。実際、この3年間でトラブルは起きていません」(永田主任)
描画領域の制約と合紙トラブルが課題に
一方、『SUPERIA ZN』の運用でネックになったのが、描画領域の制約だった。これは、エッジ汚れ対策の親水化処理によるもので、エッジから約3mmの範囲に描画できない部分があった。茂木工場長はこう説明する。
「大部分の紙面はZNで印刷できるのですが、一部のスポーツ紙や、ラテ面(ラジオ・テレビ面)の欄外を使ったいわゆるツリー広告などは、エッジぎりぎりまで描画することになるため、ZNが使用できず、有処理プレートで対応せざるを得ませんでした」
また、合紙によるトラブルのリスクも課題になっていた。木場工場のCTPは自動合紙除去機構を備えているが、オートローダーのカセットにプレートを装填する際、合紙がわずかにズレてしまうことがあり、その状態で給版されると、エラーが出てセッターが停止してしまう。そのため、オペレーターはプレート装填時、かなり神経を使って作業していたという。
読売新聞社ではこれらの課題をFFGSと共有し、テストを重ねながら改良版のつくり込みを進めていった。2018年7月から『SUPERIA ZN-II』のランニングテストに入り、目標とする性能が確認できたことから、ほどなくして本格運用へと移った。
「ZN-IIの開発の過程では、随時、試作品を提供いただいて木場工場をはじめ数工場でテストを行ない、意見交換をさせていただくという形で、頻繁にコミュニケーションをとりながら進めていきました。我々としても、合紙をなくすことや描画領域を広げることは、技術的にハードルが高いのではないかという思いはあり、同時に、期待も大きかったわけですが、完成したZN-IIでは、合紙レス、描画領域の拡大がいずれも実現していました。心配していた合紙レス化に伴うエンジンのトラブルも、テストを開始してからはほとんど発生していません」(永田主任)
■ 導入効果|合紙レス化でオペレーターの負担が大幅に低減
同社は現在、木場工場、横浜工場、大阪工場の3拠点で『SUPERIA ZN-II』を使用しているが、いずれの拠点でもZNからの移行にあたって印刷条件などの大きな変更は行なっていないという。
『SUPERIA ZN-II』の大きなメリットとして、永田主任は「合紙レス化による作業負荷の軽減」を挙げる。
「先ほどお話しした給版時のトラブルの心配がなくなり、安心感が高まったこともメリットの一つですが、合紙の回収の手間がなくなったことも大きいですね。木場工場の場合、1日あたり250版ほど出力するため、250枚の合紙を回収しなければならなかった。その作業がなくなったことで、オペレーターの負担はかなり軽減されています」(永田主任)
もう一つの課題であった描画領域についても、エッジぎりぎりまで描画可能になったことで解決している。スポーツ紙やツリー広告なども『SUPERIA ZN-II』で印刷できるようになり、運用上の制約が解消した。
また、永田主任は、耐キズ性の高さも運用効率の向上に寄与していると語る。
「ZNでも実感したことですが、有処理プレートに比べて耐キズ性が向上していますね。これはプレート表面の保護層によるメリットだと思います。もちろん、プレートの扱いには日頃から細心の注意を払っていますが、キズの発生をゼロにすることはなかなか難しい。版面にキズがついてしまうと、印刷機を停めて再製版ということになりますから、それが大幅に減ったことで、時間やコストのロスも削減できています」(永田主任)
耐刷性についても、ZNと同様、「まったく問題ない」(茂木工場長)と評価する。
「当工場では、読売新聞の朝刊、夕刊、日曜版を主に印刷していますが、ZN-IIは有処理プレートの『HN-NⅤ』と比べても変わらない耐刷力を示しています」(茂木工場長)
さらに、茂木工場長によると、『SUPERIA ZN-II』の導入によってさまざまな作業負荷や時間的ロスが削減できたことで、現場では品質管理に多くの時間を充てられるようになったという。
「無処理化によって液管理や廃液処理の作業がなくなり、今回のZN-IIの導入で合紙レス化も実現し、製版現場の作業負荷は大幅に低減しました。これらの作業に費やしていた労力や時間を、品質管理に振り向けることができるようになったおかげで、紙面品質の向上・安定化も図れています」(茂木工場長)
木場工場では、新聞用紙を複数のメーカーから仕入れており、それぞれの紙の特性に合わせて濃度設定やテンションの調整などを行なわなければならない。したがって、品質管理に集中できる環境が整ったことは、同工場にとって極めて重要なメリットになっているのだ。
■ 今後の展望|無処理プレートのさらなる進化に期待
読売新聞社では今後、前述の3拠点以外にも『SUPERIA ZN-II』への移行を拡大するとともに、無処理化をさらに推し進めていく計画だ。
「ZN-IIの導入によって、無処理化のメリットをより強く実感できるようになりました。今後期待したいのは、水版用の無処理プレートですね。これが完成すれば、いよいよ全面無処理化が現実のものになってくると思います。有処理からの切り替えを順次進めていき、CTPの大規模更新や新工場開設の際には、無処理のラインで立ち上げることになるでしょう」(永田主任)
永田主任は今後の展望について、「無処理プレートが新聞印刷における製版のスタンダードになっていくと考えている」としたうえで、さらなるプレート性能の向上にも期待を示した。
「有処理プレートは15年にわたって改良が続けられた結果、『HN-NⅤ』のような完成度の高いものへと進化してきました。富士フイルムさんには、無処理プレートも同様に進化させ続けていただき、より信頼性の高いプレートをご提供いただければと思います」
※掲載内容は、取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。ご了承ください。
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