新 今さら聞けない印刷の基礎知識③
カラーマネジメントの基礎知識

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できあがった印刷物を手に取ったクライアントから、「商品の実物と同じ色が出ていない」「リピートものなのに前回と色味が違う」といったクレームを受けたことはありませんか?そうしたトラブルを未然に防ぐために必要なのが、「カラーマネジメント(色管理)」です。今回は、イメージ通りの色を再現するためのカラーマネジメントの工夫についてご紹介します。


(1)カラーマネジメントって何?

カラーマネジメントとは、「カラー(色)のマネジメント(管理)」、つまり「色管理」のこと。印刷工程全体で、クライアント(発注者)がイメージしている通りの色(デザインや写真やイラストなど)を、印刷物(製品)で再現するために必要な手法・工夫を指します。
印刷工程の中で、「色が合わない」現象を防ぐ、つまり確実なカラーマネジメントを行うためには、大きく分けて2つの工夫が必要になります。

●異なるデバイスで同じ色が出るようにする工夫
●いつも色が変わらず安定させる工夫

以下でこれらの工夫についてご説明していきますが、読んでいただく際には、次のような印刷工程の流れを頭に置いて読んでください。

カラーマネジメント図版-01
印刷工程のイメージ

こうした流れの中のどこに、「色が合わない」現象が発生する原因が隠れているのでしょうか。具体的に見ていきましょう。


(2)「色が合わない」原因とは

印刷工程では、さまざまな機器(デバイス)が使われます。DTP編集段階で使われる「モニター」、プルーフ(校正)を出力する「プリンター」、最終的な印刷を行う「印刷機」などです。これらのデバイスの色を表す仕組みの違いなどによって、「色が合わない」現象が発生することがあります。

①モニターと印刷機の違い
同じデータをモニターに表示したときと印刷機で印刷したときでは、大きくイメージが異なる場合があります。これは主に、この2つのデバイスの色を表現する仕組み・原理の違いによるものです。

カラーマネジメント図版-02

モニター
・画面で発光するドットによる表示
・RGB方式:Red / Green / Blueの「光の三原色」の組み合わせ
印刷機
・紙面上の色材の網点による表示
・CMYK方式:Cyan(シアン・空色)/ Magenta(マゼンタ・赤紫)/ Yellow(イエロー・黄)の「色材の三原色」と、黒(Key Plateという)の組み合わせ

こうした違いから、モニターと印刷機では、そもそも再現可能な色の領域が異なっており、両者の色を完全に一致させることはできないのです。

カラーマネジメント図版-03

②プリンターと印刷機の違い
本番の印刷に取りかかる前には「色校正」を行います。そのためのプルーフは通常、実際の印刷機ではなく、デジタルプリンターにより出力します。インクやトナーの色材の掛け合わせで色を表現する点は印刷機と似ていますが、色材や色数が異なったり、掛け合わせの仕方の違いにより、同じCMYKのデータでも異なる色に見えることがあります。

カラーマネジメント図版-04
カラーマネジメント図版-05

(3)異なるデバイスで同じ色が出るようにする工夫

上記のような「色が合わない」現象に対応し、それぞれのデバイスでの色表現を近似させるには、どうすればよいのでしょうか。
例えば、RGBによる色指定(モニターなど)とCMYKによる色指定(印刷機など)は、そのままでは互換性がありません。これらの色は、機器に依存する色表現ということで「デバイス・ディペンデント・カラー」と呼ばれます。もちろん、これらの色の違いを目で見て調整していくのは非効率で、事実上不可能です。
そこでRGBとCMYKの色表現を同じ色の土俵に乗せるため、「デバイス・インディペンデント・カラー」と呼ばれる機器に依存しない色表現を用いて、色の共通言語として翻訳することで、異なるデバイス間の色の橋渡しをする仕組みが考えられました。「デバイス・インディペンデント・カラー」の代表的なものに、「CIE L*a*b*」があります。測色機が表示する色の値がこちらで、特色インクやコーポレートカラーのように絶対値として決められた色の表現に便利です。
モニター上のRGB値やプリンターのCMYK値が、L*a*b*の表現でどのような数値になるかを記述したものが「ICCプロファイル」で、そのデバイスの色特性を説明する辞書の役割を担います。

カラーマネジメント図版-06

ICCプロファイル(辞書)を用い、異なるデバイスの色を変換(翻訳)させるツール(CMM:カラーマネジメントモジュール)を使うことで、モニターやプリンターの色を印刷機の色に近似させることができます。このような色変換を行う仕組みを「カラーマネジメントシステム(CMS)」と言います。印刷物の色をモニター上で正確に再現すれば、モニター上で色校正が行えるようになります。これは「モニタープルーフ」と呼ばれ、作業効率を大幅に向上させることができます。
カラーマネジメントシステムの意味するところは、今日ではこのようなソフトウエア上の仕組みにとどまらず、印刷各工程の色の品質管理や、運用体制を整えることまでも包含するようになっています。


(4)いつも色が変わらず安定した色にする工夫

①日常的な管理が前提
もちろん、こうしたカラーマネジメントの仕組みによって、実際に色再現を維持・安定させるためには、デバイスそのものの日常的な管理も欠かせません。例えば、モニターやプリンターについては、色のばらつきをなくし、求める色を出せるように調整する「キャリブレーション」が重要です。
また、印刷機については、インキベタ濃度、ドットゲイン、トラッピングなど仕上がりを左右する変動要因が多々あり、それらをコントロールするために細心の管理が必要になります。湿し水管理、温度湿度管理、用紙ロット管理、インキベタ濃度管理などを適切に行い、品質測定を繰り返しながら、印刷物が品質基準に合致しているかどうかのチェックを行います。

②「印刷品質の標準化」の重要性
印刷発注者が印刷物の色の仕上がりに納得するか否かは、以前は目で見ての判断に委ねられていました。印刷会社はそれに応えるために都度の修正を行い、生産性を下げていました。発注者にとっても、再版印刷や複数の印刷会社への発注で色の再現が異なるのは都合が悪いことです。
そうした中、業界全体での「印刷品質の標準化」を目指して、一般社団法人日本印刷産業機械工業会が作成したオフセット印刷の色の標準が、「Japan Color 2011」。CMYKベタ色やドットゲインの目標値、ICCプロファイルなどが設定されています。
こうした業界標準規格に基づいて「印刷品質の標準化」を推進することで、同じDTPデータであれば常に同じ色に印刷することが可能になります。クライアント企業、デザイン・DTPを行う制作会社、印刷所といったさまざまな企業間で、色について客観的なコミュニケーションができるようになり、制作や印刷の効率化や、印刷物の品質向上が図れるのです。

以上、「異なるデバイスで同じ色が出るようにする工夫」と「いつも色が変わらず安定させる工夫」の2点を中心に、「カラーマネジメントの基礎知識」をお届けしました。カラーマネジメントを日常業務で運用していくことの重要性の理解を通じて、この記事が読者の方々の業務の一助になれば幸いです。

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