オフセット・デジタル共存による生産最適化事例
ページ物をメインに、組版から印刷・製本まで一貫して手がけるあさひ高速印刷株式会社(本社:大阪市西区江戸堀2-1-13、代表取締役:岡達也氏)は、オフセット印刷とデジタル印刷(POD)を柔軟に使い分ける最適生産体制を構築し、加工高の向上に加え、時間・人手・コストの最適化を図っている。同社は以前からオフセットとPODを生産機として共存運用してきたが、今回、FFGSからの提案を機に、あらためてジョブ内容の分析・シミュレーションを行ない、より最適な設備選択ができる環境を整えた。代表取締役・岡達也氏に、その経緯や具体的な効果などについて伺った。
■ジョブの分析結果を基に、オフセット/PODの運用を見直し
あさひ高速印刷は、1950年に大阪市阿倍野区で設立され、70年以上の歴史を持つ老舗企業。軽印刷でスタートし、60年代には組版から印刷、製本、発送までの一貫体制を構築。92年にDTPおよびイメージセッター、98年にCTPを導入するなど、最新設備を積極的に採り入れながら、高度な組版技術を活かしたページ物をはじめ、パンフレットやカレンダー、クリアファイルなど、多様な印刷物を手がけている。主な受注先としては、製薬会社、大学・教育機関、学会などを軸にしながら、地元一般企業にも広く顧客を持っている。
印刷設備は、オフセット印刷機が菊全判の4色機、A全判4色UV機、菊四裁判4色UV機、菊四裁2色機、軽オフ機。POD機は、カラー4台とモノクロ2台の計6台体制。後加工設備も充実しており、無線綴じ、中綴じ、リング綴じなどに幅広く対応する。
今回FFGSから提案したのは、オフセットとPODの共存環境を上手く活かして無駄な時間を削減し、リードタイムの短縮、コストの削減につなげていくという考え方だ。昨今、あらゆる印刷物で多品種・小ロット化が進む中、オフセット印刷の現場では、印刷機の実稼働時間(回転時間)に対して段取り替え時間の割合が増加し、後加工における負荷も増している。そこで、現状のジョブ内容と設備運用をあらためて見直し、オフセット印刷で時間・コスト的に非効率になっているジョブをPODに移行する運用基準を定めることで、生産工程全体の最適化を図るという提案である。
「FFGSさんの提案は、私にとって非常に納得感のあるものでした。当社はもともと、オフセットの方がいいとかPODの方がいいという考え方ではなく、どちらも同列の生産設備として活用しています。オフセットとデジタルの両方を持ち、かつ製本工程も持っていることが強みです。さらに、長年培ってきた組版・DTPも加え、この3工程の掛け算でいろいろな価値を生み出すというのが理想ですね」(岡社長)
あさひ高速印刷では、2006年に極小ロットの文字物用にモノクロの『DocuCentre f1100』を導入。その後、2010年に『Color 800 Press』、2012年には『Color 1000 Press』をそれぞれ導入し、小ロット・短納期ジョブを中心に活用してきた。2014年には『Color 800 Press』を『Color 1000i Press』に入れ替え、2台体制としている。岡社長は「旧富士ゼロックスさんのPOD機はどれも、他メーカーのPOD機に比べて圧倒的にトラブルが少ない」と、信頼性の高さを評価する。今回、生産体制の最適化にあたっては、『Color 1000 Press』のうち1台を『Iridesse™ Production Press』に更新し、PODの新たな中核機として運用していくこととした。
ただ、一口に最適化と言っても、何が最適なのかは、当然ながら会社によって異なる。そこでFFGSは、富士フイルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)が得意とする独自の分析手法を用いてあさひ高速印刷のオフセットジョブの分析を行ない、POD移行に適したジョブを割り出し、シミュレーション結果を提示。その結果を基に、あさひ高速印刷の生産部門責任者と検討を重ね、オフセット/PODの運用方針を策定していった。
■後加工まで含めた「最適」を追求
同社は、ページ物をメインに手がけていることや、製本加工まで社内で一貫してこなせる環境にあることから、もともとデジタルとオフセットの共存生産体制を構築しやすい特性を持っていた。また、岡社長自身も、「印刷材料コストだけ考えればオフセットの方が安いが、オフセット印刷での付帯業務や後加工の工数や時間なども含めてトータルで判断することが重要」という考えを持っていた。そのため、FFGSが提案した最適生産のメリットをすぐにイメージすることができたという。
「FFGSさんの提案で面白いと感じたのは、PODだけでなく、オフセット印刷や後加工まで含めて、時間・コストのシミュレーションを提示してくださったことです。当社のように後加工の設備をたくさん持っている会社ほど、オフセット/PODの生産最適化の意義は大きいでしょう。たとえば、オフセット印刷では断裁した刷本を丁合する必要があるため、現状、専任のオペレーターを置いていますが、ある程度のジョブをPODに移行できれば、丁合の負荷が減り、専任者も必要なくなるかもしれません」(岡社長)
同社が目指す“オフセットとPODの最適な共存生産体制”は、「すべてのオフセット印刷機とPOD機が同じ土俵の生産機として位置づけられ、ジョブ内容に合わせて柔軟に使い分けられる」というもの。「その環境ができれば、自ずと最適化していくはず」と岡社長は語る。ただ、そこでネックになっていたのは、オフセット機と各POD機で印刷物の原価に差が出てしまうことだった。
「これまでは、“本当はPOD機で出したいがコストが気になる”というケースがあったのです。今回、FFGSさんからの提案で、印刷にかかるランニングコスト以外の付帯作業時間を含めた製造原価を見える化してみました。その結果、PODのジョブについても私が考えていた費用感にフィットし、ランニングコストの面でも最適化が図れるということがわかりました」(岡社長)
稼働安定性を活かしてロングランジョブにも活用している『Iridesse™ Production Press』。
■POD比率が増えたことで丁合の負荷が激減、生産量は過去最高に
では、この最適化の取り組みによって、設備運用がどう変化し、どんな効果が出ているのか。
PODの新たな中核機として導入した『Iridesse™ Production Press』は、ロングデリバリー・ロングフィーダーで、ロットの大きいジョブの連続出力にも対応できる構成とした。岡社長は「6台あるPOD機の中で、Iridesse™ Production Pressは背骨になるマシン」と語る。
「クオリティや安定性については、Color 800/1000 Pressで実証済みなので、優れていることはわかっていました。Iridesse™ Production PressではさらにRIP処理が速くなり瞬発力が上がっていますし、トレイが大容量になり、大量連続出力にも対応できるようになりました。これによって、『ロングランのジョブはIridesseで出す』という、一つの軸ができたわけです。いままでオフセット機でしかできなかった仕事もPODに移行できるようになりました」
ロングランのジョブはオペレーターの待ち時間が発生してしまうため、夜間に集約し、Iridesse™ Production Pressの稼働安定性を活かして極力人手をかけずに出力している。逆に、待ち時間が短く、人の介在頻度が高くなるミドルランやショートランは、日中に回す。このように運用を工夫することで、人的効率と生産効率を高めているのだ。
「Iridesse™ Production Press導入以降のPODの稼働率(オペレーター1人に対して機械がどれだけ回っているか)は、つねに100を超えている状態です。つまり、1人で2台の機械を回せている。これにはいろいろな要素が絡んでいると思いますが、生産効率が向上しているのは間違いありません」(岡社長)
一方、受注したジョブのPOD/オフセットへの振り分けは、500部を一つの目安にしている。これは、ジョブ分析の結果、オフセット印刷業務の効率化が図れる基準として500部を分岐点にすることが、コスト的にも時間的にも有効であるとの判断からだ。ただ、時間的効果については、1,000部を超えてもPODの有効性が確認できたため、機器の稼働状況などに応じて臨機応変に対応している。
「場合によっては2,000部程度でもPODで出力することがありますし、オフセットの現場に余裕があるときは、500部以下でもオフセットで刷ることがあります。500部を基準としつつ、労働時間の平準化などにも配慮しながら適宜判断しています」(岡社長)
オフセット/PODの運用見直しにより、従来に比べてPODの比率が高まり、ジョブ数で見ると全体の6~7割を占めるようになった。とくに、軽オフセットからPODへの移行が一気に進んだという。その結果、後加工まで含めた時間・人手・コストの最適化が図れた。
「売上に対する外注比率も低減でき、社内の加工高が確実に上がっています。これは、お客さまに対する品質保証の観点から非常に重要な効果だと考えています。製造現場の残業時間も減少しました。また、後加工部門では、丁合機の稼働率が大幅に下がった一方、無線綴じ機の稼働率は向上し、生産量は過去最高になっています。つまり、丁合までカバーできるPODの比率が増えたことで、生産工程全体の効率化が図れているということですね」(岡社長)
オフセットからPODへの移行が進んだことで、後加工部門まで含めた効率化が実現している。
■掛け算の発想で商品づくり・現場改善に取り組む
オフセットとPODの共存生産体制を最大限に活かし効率化につなげているあさひ高速印刷。今後は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、工程の自動化にも取り組んでいく考えだ。
「当社のように多種多様な仕事を手がけている環境で、生産工程全体を一気に自動化しようとするのは現実的ではありません。可能なところから、スモールスタートで進めていこうと思っています。社内には、DTP、POD、オフセット印刷、後加工といったモジュールがありますが、その中で、どんな自動化が可能か。私は、“商品化”が一つのポイントになると考えています。たとえば、自動生産しやすい定型の商品をいくつか設定し、お客さまに選んでいただいて、所定のラインで生産する、というやり方です。POD機を持っていると、それがやりやすい。トライアンドエラーを繰り返しながら、いろいろな可能性を探ることができます」(岡社長)
すでに同社では、自動化を見据えて独自の商品を創り出すべく、POD・製本・自動組版などを組み合わせ、さまざまなチャレンジを重ねている。
「PODのマシンは、単なる大型のトナー式プリンターではなく、モノづくりのシステムの一つ。PODだからこそできる仕事というのはたくさんありますし、他の技術や工程との掛け算によって、新しい商品が生まれる可能性がぐっと広がります。これは現場改善の取り組みも同じで、各工程で個別に“より良いやり方”を考えるのも大事なことですが、それだけでは得られる成果が薄い。工程を超えた瞬間に、驚くような化学反応が起こる。それが面白いところですね」(岡社長)
最後に岡社長は、今回の生産最適化の成果を踏まえた上でFFGSへの期待をこう語った。
「今回ご提案いただいたのは経済合理性を追求した“最適化”でしたが、それだけではなく、環境対応などについても同様に、新しい提案をいただけるとありがたいですね。FFGSさんの強みは、決して我田引水にならず、アナログとデジタルそれぞれが抱える課題を自分たちで消化した上で、ユーザーに最適な方法を提案できることだと思っています。これができるのは富士フイルムグループだけでしょう。今後もその独自のポジションを活かした、中立的な視点からの提案を期待しています」
■お客様プロフィール
あさひ高速印刷株式会社
住所: 大阪市西区江戸堀2丁目1番地13
URL: https://www.ag-media.jp/
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