
多様化する市場ニーズへの対応、人材不足、そして原材料費の高騰など、さまざまな課題に直面する中で、会社を持続的に伸ばしていくには、何が必要なのでしょうか。そのヒントを探るべく、この鼎談企画では、先進的な印刷会社の成長戦略や、DX(デジタル・トランスフォメーション)を軸とした社内変革の取り組みなどをご紹介していきます。今回は、都心に生産拠点を持ち、圧倒的な機動力を武器に躍進を続ける株式会社帆風の製造部 部長・城所哲央氏をお招きし、生産工程の自動化・効率化の取り組みや、人の力を引き出す仕組みづくり、今後のビジョンなどについて伺いました。

株式会社帆風 製造部 部長
城所 哲央 氏
1997年入社。出力センターの生産性向上活動を担当、飯田橋店の店舗運営などを経て、2007年、販促物のオンデマンド供給を行う事業部で販促物の生産、調達、出荷業務に携わる。2012年より竹橋プリンティングセンターにて出荷部門を担当し工場の自動化に注力する。2023年より現職。竹橋プリンティングセンター全体の運営に携わる。

富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
グラフィックコミュニケーション事業本部 DX事業部長
橋本 渉
1992年、富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)に入社。中部・関西エリアで、大手製造業の主管営業として基幹系プリンターを担当。米ゼロックスコーポレーション駐在を経て、総合事業計画部門にてオフィス・クラウドソリューション戦略およびプロダクション戦略、のちにグラフィックコミュニケーションサービス事業本部設立後は、商品戦略・事業戦略に携わる。2023年、富士フイルム株式会社 グラフィックシステム事業部との統合活動をリーディング。2025年より現職。

富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社
取締役 常務執行役員 技術本部長
安田 庄司
1988年、富士写真フイルム(現・富士フイルム)に入社。足柄研究所にて製版フイルムの研究開発に携わる。2004年より液晶ディスプレイ向け高機能材料の研究開発、商品戦略・事業戦略に携わる。2011年、PS版の開発・生産拠点である吉田南の研究所にて、無処理サーマルCTPプレートの研究開発・市場導入をリーディング。アドバンストマーキング研究所を経て、2022年よりFFGSにて現職。
■Web受注の平均ロットが1,000部から500部に
安田 帆風さんのお仕事は、東京都内や近県からの受注が多いと思いますが、最近のお客さまのニーズの傾向として、何か感じられていることはありますか?
城所部長 営業と話をしていて感じるのは、最近は価格や納期だけでなく、アッセンブリなども含めた総合的な対応力が求められているということです。たとえば、印刷・加工するだけでなく、仕分けから全国発送まで一貫して引き受ける。それも何千、何万部というボリュームにも柔軟に対応する。そうした部分を期待されるようになっていますね。また、環境への配慮を重視されるお客さまも多くなっています。どんな資材を使っているか、安全基準に達しているのかというのを、レポートとして提出することもありますし、ベジタブルインキやFSC認証紙を指定されるケースも増えてきました。
安田 ロットの長さは変わってきていますか?
城所部長 明らかに小ロット化していますね。とくにコロナ禍後から顕著になっています。とくにWebで受注する仕事は、1件あたりの平均部数が、コロナ前の約1,000部から500部程度に低減しています。ただ、部数は絞られていますが、件数は増加しています。
安田 納期も短納期化しているでしょうから、生産も厳しくなっているのでは?
城所部長 竹橋プリンティングセンターは、ジョブの件数の増加には耐えられる生産体制になっています。どちらかというと、10万通し、20万通しといった大ロットよりも中小ロットのジョブをたくさんこなすことが得意な工場なんです。
橋本 小ロットに強いということは、いろいろなお客さまのマーケティングサイクルに合わせて柔軟に対応できるということですよね。
城所部長 そう思っています。また、生産拠点が都心にあるというのも大きな強みだと思います。夕方や夜間に入稿していただいても、翌朝までに印刷し、午前中に加工してその日のうちに納品できます。社内にデリバリー部門も持っており、自社のドライバーがいるので、たとえばビッグサイトで開催されるイベントで使われるツールなどを、当日に会場納品というケースも珍しくありません。極端な例では、平綴じの資料印刷を入稿から納品までのスケジュールが1~2時間というケースもあります。その日の朝に入ってきたデータを1時間で印刷・製本して、自社のデリバリー便でお届けするというもの。部数も、10~20部程度のものが10件、20件と入ってくるので、かなりの機動力が要求されますが、こうした中小ロット、極小ロット・超短納期の仕事にも対応できるところはオフセット、オンデマンド設備を都内に有していることが強みになっていると思います。
断裁から出荷までの工程の大部分を自動化し、膨大な小ロットジョブを短納期でこなせる体制を整えています。
――帆風 城所部長

■デジタル/オフセットの両輪で、大量の小ロットジョブをこなす
安田 ロットが小さくなり、一方で環境対応やアッセンブリなどのニーズも出てきている。それに対して、帆風さんではどんな取り組みをされているのでしょうか。
城所部長 資材の価格も高騰していますので、とにかく無駄を出さないことですね。たとえば、オフセットで印刷している仕事の一部をデジタル印刷に切り替えるというのも一つの対策です。とくに厚紙を使う場合は紙の単価が高いので、予備紙を極力出さないために、デジタル印刷機で対応することが増えています。厚紙を使う仕事の多くは、名刺やハガキなど、小サイズのものが多いので、A3のデジタル機で対応できるんです。現状、デジタルとオフセットの振り分けは、小ロット帯を基準にスタートさせているのですが、ここは見直しの必要を感じており、300~500通しぐらいまで上げられるのではないかと考えています。
橋本 デジタルとオフセットの分岐点は、やはり物理的なコストで判断されているのでしょうか。潜在的な固定費としては、人件費や電気代などもあると思いますが、紙やインキなどの材料費での判断を?
城所部長 現在はまだ材料コストで判断しています。本当は500通しぐらいまで持って行けるといいのかなと。他のネットプリントの会社さんを見ても、それぐらいが閾値になっているようです。
橋本 以前、欧州で印刷会社さんにヒアリングしたところ、2,000通しぐらいまでをデジタルでカバーされているところも多く見られました。それは、材料費だけでなく、電気代や、カーボンフットプリントといった環境面なども考慮して設定しているケースが多いようですね。
安田 我々がお客さまにデジタル印刷機をご提案する際には、どんなロットのお仕事がどれぐらいの割合を占めているか、といった「ジョブ分析」を行ないます。そのデータが数十社分、積み上がってきているのですが、3,000通し以下のジョブの数が、全体の7割ほどを占めているという結果が出ています。我々としては、オフセットとデジタルの分岐点も、そのあたりが最適値になるケースが多いのではないかと考えています。ですから、数百通しぐらいと伺って、かなり意外でした。
城所部長 ロットの割合としては、当社も同じような状況で、1,000通し以下が7割ほど。その中でもボリュームゾーンは500通し前後。その中で、どれだけオフセットからデジタルに切り替えられるか、今後再検証していこうと考えています。
安田 お客さまによっては、小ロットのジョブをデジタルに移すことで、オフセット側は大ロットに集中できるようになり、結果として印刷工程全体の効率化が図れた、というケースもあります。ただ、帆風さんの場合、大ロットよりも小ロットの方が得意なんですよね。そこが他の印刷会社さんと違うところですね。
城所部長 大ロットのジョブは機械を長時間占有してしまうので、社内では小ロットをたくさんこなしていくという考え方です。
安田 帆風さんは、刷版の搬送を自動化する設備をいち早くご導入いただくなど、オフセット印刷工程の効率化も積極的に進められていますが、印刷後の工程も、かなり自動化されているそうですね。
城所部長 はい。とくに断裁以降の工程は大部分を自動化しています。断裁したものをシュリンク機にかけた後は、段ボールに梱包されて宛名が貼られ、出荷できる状態になるまで全自動で行きます。





