企業にとって、環境保護活動に取り組むことは当然であり社会的な責任となっています。
「印刷」における環境保護活動への取り組みとして「水なし印刷」を選択する場合、実印刷物に対する「バタフライマーク」の付与で、消費者へ企業の取り組みをアピールすることができます。
「水なし印刷採用事例のページ」では環境対応を目的として水なし印刷を採用された印刷発注者様の声をご紹介しました。
今回は、水なし印刷方式の導入により、環境対応だけでなく、印刷品質向上を実現された印刷会社様の声を一般社団法人 日本WPAさまのご協力のもと、抜粋にてご紹介いたします。
■株式会社CCG HONANDO
株式会社CCG HONANDO(大阪市、工藤裕介社長、従業員数45人)は、印刷業からプロモーションサービス企業へ見事な業態変革を遂げたことで知られる株式会社CCG HOLDINGS(東京&大阪本社、北田浩之社長)のPrintingドメインである。東大阪市にある生産工場の別フロアには、別会社で製本業の株式会社邦南堂(東大阪市、北田真也社長)もあり、プリプレスから印刷・製本加工までの一貫生産体制で社業を伸展させている。
2019年8月から1台の印刷機を「水なし仕様」に転換し、水なし印刷の稼働をスタートさせた。転換に踏みきった理由について工藤社長は、「10年選手ということもあり、銅メッキローラーのメッキ摩耗による交換頻度が高くなり、そのコストの見直しが必要になった」と明かす。
同社では湿し水起因のローラー交換や、湿し水装置の老朽化による色むら発生もあり、機械修理に関わるコスト低減と、印刷品質の改善向上を図ることを目指し「水なし仕様」への転換へ踏み切った。
導入前テストでは、ファンアウトの解消による見当精度の向上、安定した再現色の結果が上々で、8月から本格運転に入った。
「私も含めて皆が初体験だったが、きわめて順調に立ち上がった。なかでも見当精度の良さに対する現場の評価は高い。また、給水ローラーの拭き取りといった作業がなくなることでオペレータの負荷低減になるし、その分の時間を他に振り向けることもできる」と水なし化のメリットを高く評価する工藤社長。
「当社は現在、エコアクション21、FSCという2つの環境に関わる認証を受けており、今回、水なし印刷を採用したことでバタフライマークを使うことができる。これらの内容は、SDGsが掲げる17の目標のうちの12目標と重なる。2021年8月より東大阪第一工場と東大阪第二工場の調達エネルギーを100%再生可能エネルギーへ変更。より一層環境対応をおこなっていきたい。」というのが工藤社長の思いだ。一歩先行く環境企業へ、着実な前進が期待される。
■キング印刷株式会社
キング印刷株式会社の創業は1958年。以来地元企業として、福島県福島市をはじめ県内の企業や公共機関などを主な取引先として成長を続けてきた。
2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震と福島第一原子力発電所事故に見舞われた。「会社は簡単に潰れるものだ」キング印刷株式会社の伊東邦彦社長の言葉にはこのときの喪失感が如実に現れている。県内一帯に明日をも見通せない重い空気が漂う中、後の『水なしLED-UV印刷』導入に至る伊東社長と社員たちの苦心の日々が始まった。
“パッケージ印刷をメインにし小ロットにも対応する”これは、東日本大震災という未曾有の惨禍の渦中にあって、伊東社長が掲げたキング印刷の新しいビジョンだ。「倒れるなら前向きに行くしかない」という強い意志のもとに行ったこの決断は、現在の同社につながる大きなターニングポイントとなった。2014年のことである。
「お客様に印刷の技術力ではなく価格で判断されてしまう状況を変えたい」伊東社長の意志は徐々に社員たちにも波及していった。わずか数年でほぼすべての生産設備を入れ替えるという大胆な変革も一丸となって達成できた。そして新しいチャレンジとして同社がターゲットにしたのが『水なしLED-UV印刷』の技術を確立することだった。
『水なしLED-UV印刷』のメリットには、高濃度のインキでも安定性が確保できるのをはじめ、ファンアウト発生が抑制されることによる見当精度向上や能書など薄紙印刷の品質向上、インキ使用量や損紙の低減などがある。デメリットはエッジピックやモットリングなどの問題が発生しやすい点だ。
「すべての社員がお客様が何を要求しているのかを理解している会社にしたい」高い技術力が必要となる新しい技術の導入も、その目的を共有した社員たちにとってはむしろ望むところだった。こうしてキング印刷では『水なしLED-UV印刷』に着手したのである。
技術を確立するにあたって同社は、水なしCTPで高い技術を持つ東レを筆頭に、インキやブランケットの各メーカーを加えてテストを繰り返した。そしてチャレンジ開始8ヵ月後、ついて『水なしLED-UV印刷』による製品の出荷を開始。現在ではメインで稼働している菊全判4色LED-UV機が水なし専用機となっている。
■株式会社プラルト
プラルトは1952年に中信凸版印刷所として創業して以来、一貫して顧客の販促・情報発信ツールの制作を得意としてきた。企画・デザインから印刷までを一貫して社内で手がけるコンテンツ制作力も強みだ。
そのコンテンツのアウトプット先は紙だけに止まらない。2005年にWeb事業部を発足。2016年にはUVプリンターを導入し缶バッチやアクリル等さまざまな素材に対する印刷加工にも事業領域を拡大してきた。
「PRINT(印刷)」と「ART(アート)」をかけ合わせたプラルトという社名も、付加価値の高い印刷物の提供を通じて顧客に貢献していく同社の決意を表している。今回の水なし印刷の導入も、高品質な印刷物の安定生産が最大の目的だった。
「印刷工程において、湿し水が原因のトラブルは山ほどある。常に水の管理との勝負で、そこを怠ると事故につながる」と語る石原常務は、水の影響を極力減らすことで、理想の印刷が実現できるのではないかと考え、水を絞る印刷に挑戦した。結果としてポジティブな効果も多々あったが、水に起因するトラブルがなくなることはなく、水なし印刷を検討しはじめた。
実は、約20年前にも水なし印刷を試した際は思うような成果が出ずに断念した経験がある。しかし、導入企業を訪ねて現場や経営者から直接話を聞くうちに疑念も晴れ、実際に社内でテストを行うと、オペレータからも高評価であった。とんとん拍子で導入が決まったが、そこで同社は工場の全印刷機を一気に水なし印刷方式へと切り替える大胆な決断を下す。「やるからには思い切って変えないとだめだ。変化の激しい時代にもたもたしてはいられない」という犬飼社長や石原常務の強い決意を受け、会社一丸となって水なし印刷工場へと生まれ変わった。
導入から1年が経った現在、すでにさまざまな改善効果が生まれた。
特に乾燥時間の改善効果は顕著で、両面印刷に2日を要していた特殊紙では、朝一番で印刷すれば夕方には裏刷りにかかることができる。石原常務いわく「驚くほどの効果」が出ている。
品質面では網点がより鮮明に出ることから、1枚目から最後までΔE3以内に収めることを基準に運用、石原常務も「以前より安定性が高まった」と手応えを感じている。ジャパンカラーのマッチング認証も取得した。
また、これまで作業全体の9%を占めていたメンテナンス時間が6%に減少するなど現場の作業負担も減少。印刷部の田中係長は「水回りがなくなり、作業終了後のメンテナンスはかなり楽になった」と実感を話す。段取り替え時間も14%から11%へ短縮している。
現在は水なし印刷の強みでもある特殊原反へのテストを重ねており、他社との差別化につながる特殊紙への高精細印刷には大いに期待している。 さらに、一般社団法人日本WPAの環境ロゴ「バタフライマーク」を活用した環境対応印刷も訴求していく考えだ。
犬飼社長は「印刷工場の環境整備は水なしでないと上手くいかない」と語るなど、労働環境改善の側面からも水なし印刷に期待している。
今回ご紹介した事例記事につき、全文は一般社団法人 日本WPAのサイト(https://www.waterless.jp/business/business_case/)からご確認いただけます。
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