JFlex 2020セミナーレポート
「軟包装デジタル印刷が生み出す価値」を
事例とともに紹介
北四国グラビア印刷の『Jet Press 540WV』活用戦略と成果に関心集まる

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JFlex 2020セミナーレポート_メインヴィジュアル

『JFlex 2020』会場内様子富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(以下FFGS)は、1月29日から31日までの3日間、東京ビッグサイトで開催されたコンバーティングテクノロジー総合展『JFlex 2020』に出展した。今回の出展テーマは『コンバーティングに、新たな力を。軟包装に、新たな価値を』。デジタルプレスおよびフレキソ印刷の最新のソリューションを紹介するとともに、活用事例として多彩なユーザーサンプルを展示し、コンバーティングの新たな方向性を示した。

会期最終日の1月31日には、「軟包装デジタル印刷が生み出す価値」をテーマにセミナーを開催。100名以上が聴講に訪れ、会場は満席となった。セミナーは2部構成で、第1部では、FFGSの特殊印刷事業部担当部長・菅沼敦がパッケージ市場の最新動向や課題、軟包装用UVインクジェットデジタルプレス『Jet Press 540WV』の特長とメリットなどを解説。第2部では、実際に同機を活用している株式会社北四国グラビア印刷(香川県)の取締役常務・奥田真司氏が登壇し、導入の経緯や活用戦略などについて講演した。以下に、セミナーの要旨を紹介する。


【第1部】
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社
特殊印刷事業部 担当部長 菅沼 敦

●小ロット化の課題解決に有効なデジタルプレス

FFGS_菅沼部長軟包装市場の概況を見てみると、日本では、軟包装の6割~7割が食品・飲料のパッケージとなっており、印刷方式は、溶剤を用いたグラビア印刷が主流で全体の9割以上を占める。グラビア印刷は、大量生産には非常に適した技術である。ワークフロー、流通も含めて完成されている。しかし、多種のものを少量ずつ製造する場合には、いろいろな課題が出てくる。
その一つが、工場の生産性の低下。オペレーター不足も皆さんが共通して抱えている課題だが、小ロット化はそれに拍車をかける。準備時間の占める割合が大きくなり、オペレーターの負荷が増えていくからだ。
しかし、今後も小ロットジョブが増えていくことは確実である。その課題の解決策の一つとして、デジタルプレスがあると私どもは考える。
グラビア印刷の工程とデジタル印刷の工程を比較すると、グラビア印刷では、製版、シリンダー交換など、印刷に入る前の段階で多くの時間・負荷がかかっている。それに対しデジタル印刷では、原理的にはデータを作成してそのまま印刷できるため、準備時間が大幅に削減される。実際には、面付けや、製袋に合わせたデータ加工などが必要になるが、作業を標準化しやすく、シリンダー周りの作業がかなり省ける。
デジタルプレス導入による印刷現場の最大のメリットは、「工場運営の効率化」と言える。クライアントの立ち合いを削減することも可能。シリンダーの管理なども不要になる。
クライアント側にもメリットはある。小ロット対応が可能になることで、必要な量だけ発注することができ、しかも短納期で納品される。事前に実機によるモックアップで仕上がりイメージを確認することもできる。

●デジタルプレスが軟包装分野にもたらす可能性

デジタルプレスは軟包装業界にさまざまな可能性をもたらす。一つは、小ロット・多品種・短納期への対応。二つ目は、精度の高い試作品の製作が可能になること。複数のデザイン候補を少量ずつ印刷し、マーケティングを行なったうえで最終候補を絞り込んで量産に移るという戦略が可能になる。意思決定を早めることもできる。さらに、UVインクジェットは再現性に優れるため、試作の段階でクライアントにOKをもらった色を、本刷りでも責任を持って再現できる。立ち合いレス化も含め、生産プロセス全体の改善が可能になる。将来的には、トレーサビリティの向上を図ることもできる。たとえば、ロットごとにバーコードなどで生産情報を付加することによって、最終的に店頭に並ぶところまでを見える化するといった展開が考えられる。
このように、単なる製造現場のデジタル化にとどまらず、情報化社会における生産の一翼を担う設備として、エンドユーザーも含めた情報の共有化まで実現できると考えると、デジタルプレスの可能性は非常に大きい。
また、最近では業界問わずSDGsへの取り組みも広まっている。SDGsの観点で見ると、デジタルプレスは溶剤を使わず、重労働もなくなることから、誰でもオペレーションできる環境が実現し、働き方改革にもつながっていく。刷り出しロスも削減でき、資源の節減に貢献できる。

●品質安定性、基材対応力に優れるUVインクジェット

富士フイルムでは、軟包装向けのデジタルプレスとして、UVインクジェット方式のJet Press 540WVをご提案している。これは、ミヤコシ製インクジェット機『MJP20W』のエンジンをベースに、富士フイルムの画像形成技術『EUCON技術』を搭載したもの。EUCON技術は、富士フイルム独自のUVインク、インクの滲みを防止し基材との密着性を高める下塗り技術、UVインク特有の臭気を低減させる窒素パージ技術から成る。
Jet Press 540WVで採用しているUVインクは、高い安全性も特長となっており、厚生省告示第370号、印刷インキ工業連合会のNL規制に準拠。また、欧州の規制であるSwiss Ordinance(スイス条例)のポジティブリストに掲載されている素材のみを使用している。
UVインクジェット方式の特長としては4点ほど挙げられる。一つは、品質安定性。ロット内・日内・日間の変動が抑えられ、とくにリピート生産などで大きなメリットになる。
二つ目は、高い膜物性。UVインクは硬化すると、熱や水など、外部からの物理ストレスに対して優れた耐性を発揮する。これは、加熱を必要とする後加工では大きなメリットになる。三つ目は、基材対応力。一般的なプラスチックフィルム以外にも、紙製バリア素材SHIELDPLUSやアルミ箔など、さまざまな基材に対応できる。四つ目は、シームレス印刷。ヘッドの下を原反が連続的に搬送されるという機構を活かし、長尺の印刷物も製作できる。
Jet Press 540WVに関しては、UVインクの特長を活かした新しい試みが始まっている。最近事例として出てきているのが、あらかじめラミネートした原反を用意しておき、そこに表刷りしてすぐに後加工する、という方法。このように、工程全体を変えてしまうこともできる。
大きな社会システムの中でのデジタル技術として見ると、デジタルプレスはまだまだ大きな可能性を秘めている。「この仕事に使えないだろうか」「こんな基材に印刷できないか」というご質問・ご相談があれば、どんどんお声がけいただきたい。

セミナーの様子

【第2部】
株式会社北四国グラビア印刷
取締役常務 奥田 真司氏

●デジタル印刷を検討した3つの理由

株式会社北四国グラビア印刷 取締役常務 奥田 真司氏北四国グラビア印刷は、香川県観音寺市に本社を置き、東京に営業所を持つグラビアコンバーター。今年50周年を迎える。グラビア印刷を主体に、軟包装の企画・設計・製造・販売を手がけている。ISO22000(食品安全マネージメントシステム)認証・軟包装衛生協議会認可・グリーンプリンティング工場認定を取得。また、「おもてなし経営企業選」「攻めのIT経営中小企業100選」にも選んでいただいている。
当社は社員数115名の会社だが、この規模としては珍しく製版設備を持っており、企画・デザインから製版、印刷、ラミネート、スリット、製袋まで社内一貫生産が可能である。製造する製品は、食品パッケージが70%を占める。残り30%のうち20%が化粧品などの分野。仕上がり品質に非常に厳しいお客さまが多く、その要求品質を満たすため、製版設備を社内に持ち、独自のカラーマネージメントシステムを構築することで、お客さまの要求にお応えしている。
デジタル印刷に注目した理由は、小ロット・多品種対応、社員の身体的負担軽減、環境対応の3点。近年、4,000m以下の仕事が全体の20%以上を占めるようになり、印刷機の稼働率が低下。社内での効率化にも限界を感じるようになっていた。また、ロットが小さくなると版替えの回数が増え、社員の負担も大きくなる。せめて2,000m前後の仕事をデジタル印刷機に切り替えられれば、社員の負担を軽減できるのではないかと考えた。環境面でも、デジタル印刷であればVOCの排出がないので、環境負荷低減に貢献できるのではないかと考えた。こうしたことが、Jet Press 540WVの導入を検討した主な理由だった。

●安全性の高さを確認し、導入を決定

パッケージは食品に直接触れるものであり、「パッケージも食品の一部」という考えから、当社は2015年にISO22000(食品安全マネージメントシステム)を取得している。
Jet Press 540WVの導入にあたっては、システムやインクが食品に対して安全であるか、人に影響を与えないかということを検証する必要があった。具体的には、UVインクの安全性、製品の安全性、使用できる原紙構成という3つの観点から検証を行なった。UVインクの安全性、製品の安全性については、導入前に検証を行ない、問題ないことを確認。その後、社内で使用できる原紙構成を検証していった。
UVインクについては、FFGSさんからも「食品包装に使用できる」と説明を受けていたので、当初から問題ないと考えていた。しかし、外部の方からは「UVインクは大丈夫か」とお問い合わせをよくいただいていた。そこで、UVインクが安全だということを広めるためにも、FFGSさんには、軟包装衛生協議会への加入、印刷インキ工業会のNL規制の認証取得などにより、安全性を証明していただいた。
次に製品の安全性だが、印刷が問題なくても、後工程のラミネートやスリット、製袋ができないようでは、デジタルプレスの導入はできないので、その検証も実施した。機械の仕組みもグラビア印刷機とはまったく違うので、何箇所か改良をお願いした。色の再現性も重要な要素だが、FFGSさんの協力のもと、グラビア印刷に近い色が得られるよう、カラーマネージメントを確立することができた。
導入後は、実際に使用できる原紙構成について、印刷適性やラミネート強度、シール強度などを検証した。ラミネート強度が足りないとシール強度も落ちるので、当社の品質基準をクリアすることができない。テストを30回以上重ねた結果、現在は64パターンの構成が使用可能になっている。まだまだ改良の余地はあり、使用できる構成は今後増えていくと思っている。

●バリアブルデザインなどの新たな提案が可能に

FFGSブースにて展示された「蒸らしてデリシャス」Jet Press 540WVを活用した商品をいくつか紹介する。
まず、フィルムメーカーと共同で開発した『蒸らしてデリシャス』というパッケージ。蒸気口に特殊なフィルムを貼り合わせることで、蒸気がゆっくりと抜け、蒸らし効果が得られる。この商品を初めて採用いただいたのは、地元・観音寺市の山地蒲鉾様。『蒸らしてデリシャス』の機能がお客さまの新商品にマッチし、発注をいただけることになった。この商品は、全国かまぼこ品評会で水産庁長官賞を受賞した。ただ、最初に同商品を受注したのはJet Press 540WV導入前で、グラビア印刷で対応したが、山地蒲鉾様からは非常に好評をいただき、「次の新商品にも『蒸らしてデリシャス』を採用したい」というお話をいただいた。ちょうどJet Press 540WVを導入したタイミングだったため、今度はデジタル印刷による小ロット対応とバリアブル印刷を提案した。もちろん、レンジ対応が可能かどうか、品質の検証を事前に実施。そのうえで、デジタル印刷のメリットを活かし、12パターンのバリアブルデザインを提案した。お客さまの目的と当社商品の機能が合致した結果、受注に至った。
2点目は、『京都大作戦アイスモナカ』という商品。京都で開催される音楽フェスイベント向けの、アイスクリームのパッケージだ。コスト・納期・ロット、さらに多品種対応がお客さまの意向に合ったことで受注につながった。この商品はSNSでも発信され、話題になった。一昨年・昨年と2年連続で受注している。

「京都大作戦アイスモナカ」パッケージ3点目は、ペットフードのパッケージ。いままでは、グラビア印刷の最低ロットで対応していたが、中には長期在庫となってしまうものもあった。そこで、改版のタイミングで、デジタル印刷による小ロット製造をご提案し、ご採用いただいた。この商品では、2,000m巻のフィルムを投入し、6種類のデザインを300mずつ連続で印刷した。同じ長さのデータであれば、つなげて印刷することが可能である。データの切り替わりは一瞬なので、そのまま製造を続けると異品種混入のリスクが高くなるため、製袋前に、検品機で検品を行ないながらデータの境目を明確に表示し、異品種混入防止対策をとった。こうしてデジタル印刷を活用した結果、在庫削減にもつながり、お客さまに喜んでいただけた。
4点目は、展示会用のパッケージ。お客さまは、展示会用に15種類のパッケージを早急に必要としていたが、グラビア印刷では納期・コストの面で対応が難しく、困っていた。そこで、デジタル印刷で対応できないかと当社にお声がけいただいた。ただ、その15種類は、サイズやフィルム構成、フィルム厚などがバラバラで、デジタル印刷でも手間がかかる内容であったため、お客さまと相談し、サイズ・構成・厚みを精査し、4種類のデータにまとめたうえで印刷した。無事に展示会に間に合い、お客さまにも満足いただけた。
5点目は、デジタル印刷とグラビア印刷を使い分けた例。納期の都合で、まず、初回製造に必要な最低数量をJet Press 540WVで印刷し納品。次のロットからはグラビアで印刷するという方法を採った。CMYKWの5色だが、カラーマネージメントが確立できているので、デジタルからグラビアへの移行に際しても、問題なく色のマッチングがとれた。


●デジタル印刷で市場が大きく広がった

以上、5つの例を紹介したが、デジタル印刷を指名してくださるお客さまは、少しずつではあるが増えている。
今後は、表刷りにもチャレンジしていきたい。これまでは、裏刷り・ラミネートを前提に営業活動を行なってきたが、お客さまからは、表刷りはできないかというお問い合わせをいただくこともある。紙などへの表刷りでは問題ないことがわかったが、白が1色目に来ないため、フィルム印刷には制約があった。そこで、FFGSさんからの提案で、1色目に白のユニットを追加し、グラビア印刷と同様に白の上に他の色を重ね刷りすることで、グラビア印刷並みの仕上がりが得られるということがわかった。フィルムとの密着性などに課題はあるが、表刷りは決して不可能ではないと考えている。また、環境対応フィルムにもデジタル印刷で対応できるよう、開発を進めていく。
Jet Press 540WVの導入によって、お客さまにも当社にもさまざまな価値がもたらされているが、当社にとって最も大きなメリットは、市場が大きく広がったことだと感じている。いままで軟包装を取り扱っていなかったお客さまなどからもお声がけいただけるようになった。また、表示類の変更や、少しのデザイン変更なども迅速に対応できることから、既存のお客さまにも利便性を感じていただいている。今後も新しい需要の創出につながる提案が行なえれば、さらに市場が広がっていくと確信している。


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