「業態の枠を超えて新規事業開発に挑戦し続ける、東洋株式会社の成長戦略」
東洋株式会社 代表取締役社長 角 高紀 氏
第5回(最終回):「顧客と、消費者・市場との架け橋となる」という自社の役割と、「将来に向けての明確なビジョン」が支える、新規事業開発への持続的な挑戦

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第5回(最終回):「顧客と、消費者・市場との架け橋となる」という自社の役割と、「将来に向けての明確なビジョン」が支える、新規事業開発への持続的な挑戦

 先の読めない世界情勢や、厳しいエネルギー事情等を背景とした諸資材の価格高騰など、印刷業界を取り巻く環境は急速に大きく変化しています。印刷業経営者として、この急激な変化の時代をどのようにして乗り越え、いかにして経営戦略を修正し、自社を成長軌道に乗せれば良いのか。そのヒントとなる情報をお伝えするべく、当社主催で開催している経営セミナーにご登壇いただいた講師の経営者の方に、直近の取り組みを含む、その後の成長戦略について語っていただく企画「経営セミナー講師に聞く『我が社の成長戦略ストーリー』」の第2弾です。
 お二人目は、常に市場環境や競合状況の変化に対応し、業態の枠を超えて、次々と新規事業を立ち上げることで成長を続ける東洋株式会社(本社:北海道帯広市西10条南9丁目7番地)の代表取締役社長・角高紀氏です。全5回の連載を通して、変化に立ち向かい、乗り越え続けることができる戦う企業風土のつくり方や新規事業立上げのポイント、今後の戦略などについてお伺いしてきました。
 第5回目(最終回)となる今回は、『食べレア北海道』の展開や今後の新規事業の方向性、また業態の枠を超えた新規事業開発に持続的に挑戦できる強い組織づくりのポイントなどについて、角社長と専務取締役・井上雅之氏にお話をお伺いします。聞き手は、富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社で経営セミナー事業の企画・運営を行なってきた営業本部 中林鉄治です。

角社長
角社長
井上専務
井上専務

■『食べレア北海道』の展開と次の新規サービスの方向性

中林 前回(第4回)は、コロナ禍でチラシやWebマーケティングなどBtoBのお仕事が厳しい状況になり年商も大きく減少したことから、BtoCに取り組んでいくという意思決定・経営判断をされて、『食べレア北海道』を始められたというお話を伺いました。この新規ビジネスは、これまで東洋様が蓄積してきた流通やWebビジネスなどの知見を活かした形で取り組まれたことで、まだ開始して2年ほどですが、既に強い手応えを感じていらっしゃるとのことでした。まず、『食べレア北海道』の今後の展開についてお聞きかせください。

角社長2

角社長 ひとつは、この『食べレア北海道』を「北海道のレアな商品が一番売れるWebサイトにする」という目標があります。2年近くこのサービスを提供する中で身をもって経験・理解したのは、やっぱり“北海道ブランドは強力で北海道のものが欲しい方は全国にたくさんいらっしゃる”ということ。北海道にはまだまだ商品がたくさんあり、消費者へ直売することを模索している生産者様も多くいらっしゃいますので、当社はその手段を提供して一緒になって成果を上げるためにお手伝いしたいと考えています。

井上専務 『食べレア北海道』の中のヒット商品を大手流通様にご紹介するというビジネスも既に展開していますが、これはやろうと思えば、他社でも真似ができてしまうことなので、特別に戦略的なものだとは考えていません。

龍の髭

角社長 大切に考えている当社の役割は、「当社のお客様である生産者と、消費者・市場との架け橋」となることです。これは昔も今も変わっていませんし、これからも変わらないと思います。印刷の仕事でずっとこの役割を担ってきましたが、扱う媒体が変わり、商品が変わり、当社の事業構造が新しくなっても同じです。ただ、市場や消費者のことを、うわべだけでなく、深く理解しないと、本当の意味でその役割を担うのが難しい時代になってきているとも感じています。そのため、『食べレア北海道』のような、新しいBtoCの事業を通じて、我々自身が勉強したり新しいノウハウを蓄積したりしながら、自分たちもどんどん変わっていく必要があると思っています。

井上専務2

井上専務 『食べレア北海道』というECサイトは、その役割を果たすための一つの手段であり、これまでの当社の取組みから派生した商品・サービスです。当社のビジネスは、言い換えると、情報の非対称性があるところで、それを埋めるための、みんなが知らない情報を伝えることを生業(なりわい)にしてきたといえると思います。その手段は、印刷物だったり、インターネットだったり、イベントだったり、テレビコマーシャルだったり。これからは、更にお客様の業界を深く理解した上で、売上最大・経費最小の実現を支援するビジネスデザイン・サービスを提供したいと考えています。具体的には、お客様のコアコンピタンスを理解したり、商品・サービスのサプライチェーンやバリューチェーンを分析して、ボトルネックやコスト構造、改善点を把握したり。世の中の経済状況や、お客様の経営状態への理解を深めて、本当の意味でのプロフェッショナルにならないといけません。
イノベーションは、既存の知を分析して組み替えたり、新しい知を組み合わせたりすることで起こすことができます。また、様々な企業の結節点にいることが、当社の、そして印刷業界の強みです。多くの企業とお取引させていただいているのですから、きちんと調べた上で、例えばA業界とB業界の良いところを組み合わせたりすることで、売上最大・経費最小を実現するイノベーティブな新しい商品・サービスを企画提供できます。
 既存のお客様である大手流通様や『食べレア北海道』に商品をご提供いただいている生産者様に対しても、売上最大・経費最小の実現を支援したいと考えています。そのサービスには、例えば、パッケージのデザインや販売チャネル分析、リピート購入を促進する導線づくり、などが含まれると考えています。


「5つの責任」を果たせる経営幹部・管理職を育成し、強い組織をつくる

中林 今回の取材では、何回も「社員の育成」や「組織づくり」のお話をお伺いしたのが印象的でした。今後、御社では、新規事業開発に持続的に挑戦できる組織を、どのようにして、つくっていかれるのでしょうか。

角社長 最近、会社の部門長など経営幹部や管理職に担って欲しい「5つ責任」を明確にしました。会社を動かす原動力は幹部、管理職なので、その人たちのレベルを高めることが重要だからです。あわせて、それらの責任を果たすことが各人の評価につながるという評価の仕組みも導入しました。

中林 「5つの責任」について、詳しく教えていただけますでしょうか。

角社長3

角社長 1つ目は「業績の責任」です。営業でも工場でも数字・成果があり、その責任を果たすのが管理職の役割ですから。
 2つ目は、「人の育成についての責任」。例えば、新人教育のカリキュラムを作るのは会社ですが、やはり新人に一番近い、日々接する立場の管理職の人たちが考え率先して動いてくれることで、教育の成果はより高まります。
 3つ目は「報告の責任」。情報を包み隠さず報告する。嫌な報告はしたくないという気持ちも分かりますが、でもそれは嘘をついてるのと一緒です。会社にとっては後々大きな問題に発展して、それによって深刻な損害を被る可能性もあります。しかし、早く対処すれば、損害を出さなくて済むかも知れません。残念ながらウチの会社でも、まだそうしたことがありますので、報告の責任を入れています。
 4つ目は、「新しいサービスをつくる責任」。現在、『食べレア北海道』の立ち上げを進めていますが、管理職には「新しいサービス・事業を自ら作り出すんだ」という気概を持って欲しい。毎日の仕事の中、例えば営業だったらお客様のニーズの中に「それ、ウチの会社でやれば新しいサービスになるのでは」といったヒントを見つけたりできると思います。部門長・管理職なら常にそういう情報アンテナを立てて、自社の事業に繋げることを考えて欲しいと思います。

中林 4つ目の「新しいサービスをつくる責任」を部門長が果たすため、どんな取り組みをされているのでしょうか。

井上専務 例えば、企画・設計を進めている段階の新商品・サービスについて、それぞれの責任者が、お客様への実際の提案シーンを想定したプレゼンテーションを社長と私に対して行うという取り組みを始めました。営業担当の部門長だけでなく、システムや企画の部門長なども「自分だったらこうやって売り込む」というところまで考え、説明できるようになる練習です。新事業について深掘りして考えさせて、プレゼンのスキルを高めさせることで、新しいサービスを自分ごととしても捉えられるようにもなります。しかしながら、この取り組みを始めてみて、現状では多くの部門長がまだまだ売り込みのスキルが足りないことが分かりました(笑)。

角社長 「5つの責任」の5つ目は「業務改善の責任」です。自ら率先して今の仕事のやり方に疑問を持ち、改善提案をすることを求めています。ずっと同じ作業内容で、業務の現状を振り返ることをせず、現状のまま何も変えずに、問題が改善がされなかったら、生産性が上がりませんからね。

井上専務3

井上専務 業務改善のためには、作業内容の棚卸が不可欠です。棚卸しすることで、利益に結び付く仕事、そうでない仕事、短期的には利益に結び付かなくても中長期的には利益にコミットするような仕事、などを明らかにできます。
 あと、小さな改善を行うことも大事ですが、ゼロから見直して大きく業務を改革することも大事です。例えば、営業がお客様担当を引き継いだ時、前の担当者の延長線上で行うと全然効率が良くならないんですよね。ところが、業務の棚卸しした上でお客様と「これは、止めましょう」「こういう風にやりませんか」と話し合うことで、効率を大きく高めることができる。例えば、「校正は2回まで」「お伺いするのは週1回」とか。個人任せにせずルール化し、明文化することを、管理職・部門長に考えてもらっています。

角社長 5つの責任をしっかり果たせる幹部・管理職を育成することで、組織として強くなることを目指しています。組織の中の一握りの誰かが一生懸命やるとか、誰かの力に頼るとか、もうそんな時代ではありませんので。各部門長には、自分でも勉強してスキルアップして貰いたいと考えています。自分で勉強すべきことを分かっている人が、部門長になると思いますから。


新規事業開発を支える「変わらないこと」や「明確なビジョン」

中林 今回が最終回なので、今後、東洋様をどのような会社にしていきたいかといった将来のビジョンなどを、角社長と井上専務それぞれから、最後にお話しいただけますでしょうか。

角社長4

角社長 約20年前に入社して少し経ったころ、私はCS(カスタマー・ソリューション)室という部署を立ち上げました。その頃から自分の思いが変わってるかというと、そこは一緒かなと思うんですよね。ただ、時代が変わっていく中で、そのソリューションの中身、お客様の課題はどんどん変わってきた。そういう意味では、「時代に合ったソリューションを提供する会社であり続けたい」と考えています。
 最近、人口減少で需給バランスが崩れて、商売をなさっている皆様が苦労されています。そうした中で当社が提供し始めたソリューションのひとつが「自治体との包括連携協定」です。現時点では北海道の3つの町と締結していていますが、これからそれを広げていく計画です。人口が減少する中、北海道の多くの自治体が、道外からの移住・定住の促進や観光客の誘致などに力を入れていらっしゃいます。我々は情報発信が得意なので、全国に情報を発信することで自治体様の課題を一緒に解決する、といった内容のソリューションになっています。
 社会課題の解決の一翼を担うことを通じて、当社の社員、みんなに幸せになってもらいたい、ということも考えています。定年退職まで、この先65歳、70歳まで勤めることになるかもしれませんが、本当の意味で「この会社にいて良かった、働いて良かったな」という気持ちで退職していって欲しい。そういう目標みたいなものがあります。そういう会社にしたいと思っています。

井上専務4

井上専務 先ほどご説明したように、当社は「情報を発信することで、情報の非対称性を埋める」という付加価値を提供し、その対価として収益をいただくことで存続してきた歴史があります。その情報発信手段は時代とともに変化していて、この先もデジタル技術は進化し続けるので、技術革新の波に乗り遅れないようにしながら、いかに情報の非対称性を埋めるか、それを研究していきたいと考えています。
 また、情報を扱うプロの集団として、未来を自ら作っていく、創出することにも取り組んでいきます。人口減少や高齢化、地方自治体の財政破綻といった「既に起こった未来」にも、必ずビジネスチャンスはある。そうした社会課題の解決に、情報を扱うことで貢献する。また、当社はいろんな業界の結節点にいますから、様々なリソースを組み合わせることで課題解決に貢献していければと思っています。
 社会が豊かになることで、当社も成長する。そういう大義をしっかり持った会社になりたい。そうしたら社員にも、給料も良くて社会に貢献できてる良い会社だと誇りを持ってもらえます。社員が自分の子供や親戚を入れたくなる、そんな会社になればと思っています。

中林 御社が次々と繰り出される成長戦略の打ち手の根底には、「顧客と、消費者・市場との架け橋となる」という、今も昔も変わらぬ東洋さんの基本的なスタンスがあり、そして、この大義を踏襲しつつ、常に世の中の変化、様々な技術の進化、経済情勢の変動をウォッチし、環境に適応しながら「将来に向けての明確なビジョン」を打ち出し続けていることが、御社が業態の枠を超えて新規事業開発に挑戦し続けられる理由なのだということがよく理解できました。大変参考になりました。ありがとうございました。
 角社長、井上専務、加藤取締役には、8ヶ月間に亘ってご協力いただいて実施した全5回のインタビューを通して、常に市場環境や競合状況の変化に対応し、業態の枠を超えて次々と新規事業を立ち上げることで成長を続けるための、たくさんのヒントをご紹介いただきました。それは、顧客と消費者・市場との架け橋となることを経営戦略の根幹としながら、「顧客のこと・顧客の業界のことをとことん深く知るということ」、「常に新しい知識を積極的に吸収し新しいことに挑戦して、その知見を蓄積する事」「蓄積した知見・リソースを組み合わせて、本業をアシストする新規事業を立ち上げること」「組織として強くなること」「明確なビジョンを持つこと」といったものでした。厳しい市場環境の中、新規事業を通じて収益力向上に取り組まれていらっしゃる全国の印刷会社様にとって、東洋さんの成長戦略は大いに参考になると思います。角社長、井上専務、色々とご協力いただきました加藤取締役、誠にありがとうございました。東洋様のさらなる成長を心より祈念いたします。

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