MISも営業活動の武器にして、適切な利益を確保
中林 ところで、M&A先の企業に、既に他のMISが導入されていることはないのですか。
服部社長 ほとんどの会社に何らかのMISは入っています。ただ、十分に活用されていませんし、時間を計ったりは全然していません。
中林 それを止めて、服部さんのMISに切り替えるのですね。
服部社長 そうです。何かあったら困るので最初は並行して使うようにしています。移行期間は3カ月くらいを想定していますが、実際には3ヶ月もかかっていないと思います。
中林 営業さんは、MISを切り替えることに抵抗感はないのでしょうか。
服部社長 それはあると思いますが、「切り替えてね」ということで始めます。「NO」はないですね。
羽田課長 第4回でもお話ししましたが、服部プロセスバージョンのMISは見た目もシンプルで使いやすいので、切り替えはそれほど難しくないと思います。年齢が高かったりしてパソコンに慣れていない方には、営業事務が支援します。
服部社長 MISを切り替える意義や効果については、最初に説明しています。今までやっていた「自分でエクセルで集計して資料を作成・提出する」といった作業は無くなります、とか。MISに入力された数字から自動的に計算して資料は作成できますので、今までよりも楽になります、と。
中林 分かりました。ところで、営業さんがご自分の見積り金額をベースに制作スタッフに対して「この時間以内でやって欲しい」と制作に指示を出すようなケースはあるのでしょうか。見える化を徹底している会社では、そう言うケースがあるようですが。
服部社長 営業が制作に時間を直接指示するケースは、当社の場合ほとんどありません。
羽田課長 各仕事に対しては、制作のリーダーが目標時間を立てて作業します。
服部社長 それで赤字になった場合は、営業が怒られます。制作費用の見積もりが甘かったと言うことですよね。そして、次に利益が出せるように、もっと価格を上げる、もっと簡単にできるやり方を現場と一緒に考える、といった対策を検討します。
中林 営業さんは制作にどれだけ時間がかかるか、わからないのではないですか?見積もりの際、作業時間がどのくらいかかるか制作に聞きに来たりするのでしょうか。
服部社長 2時間程度でできるような簡単な作業については聞きに来ることはないです。しかし、A4の300ページといった金額的にも大きな仕事では、見積もりを間違うと大変なことになるので、必ず制作のリーダーに聞きに行きます。その際は、2ページとか3ページ分の素材を集めて実際に制作してみて実験することもあります。「これだったら1人当たりこれくらいの時間でできるな」とか「それで何人かけたら1週間で出来るな」とかいう、トータルの時間が全部試算できるので、原価や利益の精度を高めることができますから。
中林 見積もりを出す際、そういった実験までしている会社は聞いたことがないですね。
服部社長 あまりないと思います。ただね、実験はいいですよ。実験をやりながら「これがあったら、もっと早くできる」ということが考えられるので。
お客様のご予算が見えている場合には、その金額の中で出来るかどうかを確認します。初めての仕事でも営業がしっかりしていれば目安は分かりますから。中には、めちゃくちゃ儲かる仕事もあります(笑)。その場合には多少値引きをしようかという話にもなります。例えば、作業を自動化することで非常に安くできたりするケースもあります。安くなればお客様にも喜んでいただけますし、当社も余裕を持ってできます。実際、ページ物の仕事などでこうしたケースがあります。
スムーズに進むXMF RemoteのM&A先への展開・定着
中林 FFGSではXMF Remoteの導入・定着に当たって、まず、制作部門で全てのジョブの登録をして下さい、ある程度のベースができたら次に営業さんが確認したりご自分で使ってみて下さい、そして最後にお客様にオンライン校正を提案するなど、活用範囲を広げていきましょう、といった3つのステップをご提案しています。服部グループに入られる企業に展開する際には、どんなステップで進めていらっしゃいますか?今までXMF Remoteに触れたことのなかった方々に使っていただく上で、一番大事なことは何でしょう?
服部社長 「やれ」という号令です(笑)。使っても使わなくても良いよ、と言ったら使いません。ルールなのでやりなさい、と強く言うことが不可欠です。
中林 制作スタッフの方にとっては、DTPの作業の他に、XMF Remoteへの登録や検版という、プラスアルファの操作が入るのですが、とにかく「やりなさい」と言う事ですね。
服部社長 それで良いと思います。XMF Remoteを使っていくうちに、例えば2校・3校で検版機能で差分が分かるようになって「あ、いいな」と思うようになりますから。
中林 新しくグループに入った会社の方々がXMF Remoteの操作が難しかったりして、「良く分からない」「使えない」「使いたくない」ということはないですか。
羽田課長 それはないですね。リモートプリントのように出力チームが楽できる、色んな自動処理ができるようになるといったメリットがありますから。しかも、新人でもメリットを受けられる。以前はOKになってから出力チームに下版用データを作ってもらっていましたが、今ではXMFに上がっているデータをそのまま使うだけなので、出力チームは不安もないし楽なんです。先祖帰りしたデータが出力チームに来ることも無くなりました。
服部社長 経営者の視点から言うと、XMF Remoteを入れることで、流れがシンプルになって分かりやすくなるメリットがあると思います。こういう流れ、手順で来たんだなということが分かる。
XMF Remoteジョブ登録画面
中林 服部プロセス様では全ジョブ運用されていますが、M&A先の企業でも全ての制作物のデータをXMF Remoteに登録しているのでしょうか。
服部社長 基本的には新しいジョブは全部登録します。例えば、7月1日からとなったら、7月1日からのデータに関しては全部登録する。それまでのジョブは、それまで通りやっても構いません。初校で動いていて、今後2校目・3校目となっていくジョブに関しては登録してもしなくてもどちらでもOKです。でも、早めに登録した方が後々得になること伝えています。最終的には登録する必要がありますから。
中林 新たなグループ企業にXMF Remoteを定着させることは、割とスムーズにいくんですね。
羽田課長 スムーズですね。説明したら分かってくれます。
リモート環境を活かして宮崎事業所を立ち上げ、制作の能力拡充とコスト削減を実現
中林 第3回でもご紹介しましたが、服部プロセス様では離れたグループの複数の拠点をまたいで制作の仕事量を平準化したり、東京や大阪の仕事を宮崎事業所(宮崎県宮崎市)で組んだり、といったことを自由自在にされています。その際、XMF Remoteのポテンシャルも存分に引き出していただいています。
宮崎は、現地では営業活動を行わない、制作専門のオフィスとして、数年前にイチから立ち上げたとお伺いしています。この事業所を立ち上げた背景や経緯、現状などについて教えてください。
服部社長 ある時、新規受注の旅行パンフレットの仕事でかなりの人数の制作オペレーターが必要になりました。そこで、人件費が安くて補助金も出る沖縄県で新しく事業所を立ち上げようとしました。場所も借りたのですが、なかなか人が採用できなかった。次に宮崎で探したところ、とても好意的に迎え入れていただき、良い方々も採用できました。宮崎の役所の方がとても誘致に積極的で、色々な制度についても教えていただけました。
中林 通常は、もし制作スタッフが不足したら、「神戸本社で採用して増やそう」となりますよね。しかし、御社ではXMF Remoteの運用によりリモートで作業して、仕事を分散して進行できる環境が既に出来ていて、場所や距離の制約がなかったですから、そうした判断ができたと。宮崎事業所を開設したのはいつ頃でしたか?
羽田課長 コロナ禍の前、2019年でした。
中林 コロナ禍になってリモートワークが一気に広まりましたが、御社ではそれ以前から手がけていらっしゃったんですね。
羽田課長 ネットワーク環境が良くなっていますし、ファイルサーバーやXMF Remoteなどリモートで作業できる環境があれば場所は関係ありません。また、地域による賃金の違いもあって、中には神戸よりも低いところもあります。制作にかかる費用の大部分は人件費なので、それを下げることができればコスト的にも有利になります。
中林 宮崎事業所では、何人くらい採用されたのですか?
羽田課長 13人だったと思います。ほとんどが中途採用で、一部、新卒もいました。近くに専門学校がありましたから。ただ、制作については、ほとんどが未経験者でした。1人だけ経験者がいましたが、第3回でお話ししましたように入社時には当社基準で「普通」だったので、他スタッフと一緒に教育しました。全員、2ヶ月くらいで戦力になりました。
中林 全くの未経験者を採用して、服部プロセス流の制作のやり方をイチから全部教えて、たった2ヶ月で全員が一般的なDTP担当者の2~3倍のスピードで制作できるようになった、ということですか。それはすごいですね。
羽田課長 宮崎で教育をスタートするに当たっては、本社でものすごく準備しました。色々な動画を撮影したり、マニュアルを作ったり。独学でも、それを「見たらなんとなく分かる」ような、ビデオ教材をたくさん作りました。初心者がほとんどなので、基本的な「コピペ」みたいなレベルのものから用意しました。全員とても真面目で素直だったこともあって、すんなり覚えていただけました。
中林 スムーズに覚えていただけたのは、それまでの教育の経験を踏まえた資料だったことも大きいんでしょうね。宮崎には、神戸からも社員さんを派遣されたのですよね?
羽田課長 制作のリーダーとして、神戸本社から山口1人を派遣しています。しかし、1人だけでは10人以上のオペレーターに十分な教育はできませんから、独学用の教材を用意しました。山口は、現地での労務管理なども含めた相談役的な役割も担っています。あと、MACやサーバーなどは、本社でキッティングして用意したものを送りました。
宮崎事業所リーダーの山口さん
中林 宮崎でも、MISやXMF Remoteなどの同じインフラを使っているのですか?
羽田課長 はい、宮崎ともVPNでつながっています。私達が「テレ校」と呼んでいる、神戸本社で校正紙をスキャナーで読み込んだら宮崎のプリンターから自動的に出力されるという仕組みもVPN経由で確立しています。テレ校以外にも、XMF Remote、MIS、テレビ会議システムなどを、VPNにより共有しています。
中林 現在、宮崎ではどのような仕事をされているのでしょうか。
服部社長 新しくM&Aした東京の広告代理店の仕事、旅行パンフレットは宮崎で制作しています。あと、本社の仕事で宮崎で制作しているものもあります。宮崎事業所は、順調に稼働しています。
印刷は、営業利益率10%を十分に達成可能な業界
中林 御社は7月決算だったかと思います。今期(2022年7月期)のグループ全体の売上高・営業利益はどのくらいになりそうですか?
服部社長 今期の売上高は40億円前後、そして来期は40億円を超えると見込んでいます。なお、製版会社時代のピークは10から11億円くらいでした。
中林 M&Aでどんどん売上と利益を伸ばしていますね。服部社長のM&Aの基本には「企業再生」があって、企業の収益を高めることを目的とされています。そして、実際に高収益な体質に企業再生されることから、M&Aの件数も増えて売上も大きくなっている。理想的なM&Aですね。
服部社長 ありがとうございます。中林さんが仰るように、私がM&Aを通じてやりたいことは「企業再生」なんです。最近M&Aした企業の中にも、利益率を大きく改善できた会社があります。昨年、M&Aしたばかりの、東京にあるドアーズは、M&A前は売上が約3億円で1,800万円の赤字だったのですが、今期は約6,000万円の営業利益を出せそうです。
ちょっと生々しいですが、これまで、私が取り組んできたM&Aの内、売上規模の比較的大きい案件だった数社のビフォーアフターの成績を紹介しますと、ざっとこんな状況です。
当時の売上 | 当時の損益 | 直近の売上 | 直近の営業利益 | 利益率 | |
デイリー印刷 | 845百万円 | ▲7百万円 | 496百万円 | 35百万円 | 7% |
全版 | 307百万円 | 6百万円 | 266百万円 | 36百万円 | 14% |
はまや印刷 | 404百万円 | ▲30百万円 | 945百万円 | 210百万円 | 22% |
ノスメディア | 227百万円 | 1百万円 | 188百万円 | 45百万円 | 24% |
ドアーズ | 353百万円 | ▲18百万円 | 289百万円 | 64百万円 | 22% |
中林 こうして各社のビフォーアフターの数字を見ると圧巻ですね。コロナ禍の影響で直近では、売上が減少しているところもありますが、営業利益については、しっかり確保しておられますし、はまや印刷、ノスメディア、ドアーズの営業利益率は20%超えですね。特に、はまや印刷は売上も倍以上に伸ばしていますが、利益が2億超とはすごいですね。これは、元々良い顧客を持っていたところに、服部さんの営業努力で新規受注を増やし、利益を大きく上られたケースですね。
服部社長 第2回でお話ししたように、私がM&Aをすると決める際には営業利益率1割は出せるだろうと見込んでいますが、それ以上の利益が出たらラッキーだと考えています。しかし、実際には10社以上の会社をM&Aして、各社、それまでの仕組みを変えて、仕事の仕方を変えることで、どの会社も10%以上の利益が出るよう収益を改善して、再生してきているんです。印刷業界全体としては縮小しているかも知れませんが、私の肌感覚では、「ちゃんとやれば十分に儲かる業界」だと思います。
例えば、印刷会社は仕事を外注に出したりした際、その価格に10%から15%、20%上乗せした金額を顧客に請求していますよね。これまでM&Aしてきた全ての会社もそうです。赤字で仕入れているものってないんですよ。粗利をしっかり取りながら仕事をしているはずなのに、何か良く分からないところでその利益が消えてしまう。そういうところをちゃんと突き詰めて、改善すれば、まだまだ売り上げの10%ぐらいは十分儲かる業界だと私は思っています。
中林 たくさんの印刷会社様を再生してきた服部社長ならではのコメントは説得力があります。ありがとうございます。印刷業界の一員として、とても元気をいただきました。
服部社長には5回にわたるインタビューを通じて、製版会社時代から蓄積してきた「効率化と見える化」のノウハウを活用した「必勝M&A戦略による服部プロセス成長の方程式」をご紹介いただきました。それは、「見える化と効率化」のノウハウに基づいてM&Aする企業を評価・選定した上で、数多くのM&Aを実施。そして、その全てを高収益な企業へと再生させることでグループとして成長を続ける、というものでした。
この方程式は、厳しい市場環境の中で収益力向上の取り組みを進めていらっしゃる全国の印刷会社様にとって、大いに参考になると思います。
服部社長、羽田課長、色々とご協力いただいきました田中様、宮島様、そして宮崎からリモートで参加いただいた山口様、本当にありがとうございました。服部プロセスグループ様のさらなる成長を心より祈念しております。
(左から)羽田課長、田中様、山口様、宮島様、服部社長
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