経営セミナー講師に聞く
「我が社の成長戦略ストーリー」Vol.1

必勝M&A戦略による服部プロセス成長の方程式
服部プロセス株式会社 代表取締役 服部晴明氏
第4回:「MISによる見える化」で高生産性・高利益率を維持する経営

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機械取りや資材の手配のタイミングは、工務がMIS情報から判断

中林 続きまして、印刷機の生産計画や資材の発注についてですが、御社では、紙など印刷資材の手配や印刷機の機械取り(=機械毎の稼働計画)は、どんなタイミングで、またどなたが行われているのでしょうか。

羽田課長 営業がMISに入力した納期から逆算して、工務の担当者が機械取りや資材の手配のタイミングを判断しています。機械取りは基本的に、本社の仕事は本社優先です。
デイリー印刷が取った仕事はデイリー印刷優先。東京の仕事は割り振る必要がありますが、「この印刷機の1日の印刷時間は最大12時間」などと決めてしまえば、12時間までは工務がどんどん仕事を入れていきます。

中林 印刷の通し枚数ではなく、稼働時間で管理されているんですね。

自社開発MIS 印刷時間調整用グラフ

自社開発MIS 印刷時間調整用グラフ

服部社長 そうですね、印刷機毎に通し何枚から時間に簡単に換算できるので、全て時間で管理しています。いつ、どの印刷機に何時間分の仕事が入っているかがわかるようになっています。

羽田課長 また、MISでは、地区別・機械別の予定印刷時間をグラフで見ることができます。このグラフでは、各印刷機の確定した仕事と「動かせる仕事」も確認できます。「動かせる仕事」というのは、各工場の常備紙を使い、印刷用データがいつでも送れる状態になっている仕事のことです。当社ではXMFで全ジョブ運用していますし、各印刷機に適したテンプレートも用意されているので、どこでも臨機応変に印刷できる、「動かせる仕事」のような運用ができているんです。

XMF Complete 2台、XMF Remote 1台をグループ全企業で運用

XMF Complete 2台、XMF Remote 1台をグループ全企業で運用

中林 XMFは神戸本社に設置していますが、どこの事業所からもVPNでXMFの操作、運用ができますから、どこのプレートセッターにでも印刷データを出力できますね。
加工機の機械取りはどうなっているのでしょうか?

羽田課長 加工工程も同じように予定時間をグラフで見ることができます。ただ、加工の仕事を「動かす」のは難しい。加工するためだけに印刷物を別工場に運ぶというのは手間がかかりますから。基本的に印刷と加工はセットです。旅行関係の仕事のように折り加工の数が非常に多い場合などには、印刷物を動かすのではなく、人を動かしています。加工の予定も、印刷機の機械取りと同じタイミングで工務が入れます。

中林 ところで、ある印刷会社では印刷機の稼働状況をMISでリアルタイムに確認できるようになっていました。御社のMISでは、印刷機や加工機の稼働状況もリアルタイムで「見える化」されているのでしょうか。

服部社長 いいえ、それはやっていません。というのは、当社の場合、印刷機や加工機の稼働状況をリアルタイムで見る必要性をそれほど感じていないからです。稼働状況を見ながら「仕事を動かす」訳でもありせんので。

服部プロセスにおける管理会計の考え方

中林 見える化について、もう少し詳しくお聞きします。制作スタッフの「時間コスト」は現在1時間4,000円ということですが、例えば新人とベテランで違ったりするのでしょうか?

羽田課長 全員4,000円です。ただ、印刷担当など他部署は全然違います。

中林 固定費を変動費として管理する「時間コスト」には、人件費以外にはどんな費用が含まれているのでしょうか。減価償却費や光熱費なども入っていますか?

服部社長 あまり細かくは計算していません。「このくらいの単価にしておけば、絶対に儲かる」くらいのアバウトなものです。

中林 なるほど、多少アバウトでも、時間管理をすることが大切ということですね。分かりました。あと、MISで把握されているジョブごとの損益を積み重ねた結果を、例えばグループ会社各社の月次決算として使っていたりするのでしょうか?

服部社長 グループ会社の損益は、経理の方(財務会計)の月次決算で見ています。MISは管理会計なので、あくまでも管理的に見ているだけです。

中林 あるコンサルタントが、MISでの管理と経理情報の精度を求めることが重要という話をされているのをお聞きしたことがあります。制作スタッフ一人ひとりの賃金を元に、時間単価を個別に設定したり、とことん現実に即した管理をするという、非常に細かい話をされていました。御社では管理会計の結果と経理での結果を比較されていますか?

服部社長 それはあまり意味がないように思いますので、私は比較していません。管理会計では傾向を見ているような感じです。赤字を出さない、という意味が大きいというか。例えば、現在グループ全体で月に3億円位の売上がありますが、それが2億円になっても4億円になっても儲かるようにするのが管理会計だと考えています。各ジョブの利益率が10%だったら、売上が2億円になっても2,000万円くらいの利益が出る、あるいは4億円になったら4,000万円の利益が出る、というのを見るのが管理会計だと思います。

中林 もし、あるジョブが十分に利益を確保していない、もしくは最悪、赤字だと言うことが「見える化」によって、確認できた場合、どのように対応するんでしょうか?

自社開発MIS コスト計算リスト

自社開発MIS コスト計算リスト

服部社長 まずは、当社で出来る限りの効率化の努力をします。それでも、ずっと赤字が続いているジョブの場合には、営業が先方に値上げ交渉します。値上げ交渉が通らない場合は経営者として続けるか止めるか決める必要がありますね。

羽田課長 赤字が続いている仕事の中には、多くのコストが掛かっていることにお客様が気付いていないケースがあります。その場合には、こちらから「今まで4回やっている訂正(校正)を2回にしましょう」とか「原稿の出し方をもう少し丁寧にお願いします」のように改善方法を提案します。これもMISで「見える化」できているからできる提案です。

服部社長 改善方法が提案できると、営業は価格交渉し易くなると思います。MISは、営業活動にも積極的に活用しています。

中林 しっかりMISを運用できているから、営業活動にも役立てられるのですね。

MISと「見える化」は、効率化して利益率を高めるための両輪

中林 ところで、他の印刷会社様から「服部プロセス様のMISを外販しないのか」というお問合せがあるのですが、こうした計画はお持ちなのでしょうか?

服部社長 外販は可能です。市販のデータベースソフトを導入していただいて、そこに、当社で組んだMISのファイルを組み入れるだけですけどね。当社のMISを使っていただく事に何の問題もありません。ただ、MISを入れただけでは儲かりません。同時に「見える化」することが不可欠です。儲けるためには、まず第一に、儲かっていない仕事を明らかにする必要があります。そして儲ける努力、儲かっていない仕事を効率化するために知恵を絞ることが求められます。
 社長様の中には「制作がどんな作業をしているのかよく分からない」「工場がなぜ忙しいのか分からない」、だから「現場に口出ししない」という方もたくさんいらっしゃいます。こうした社長様も「見える化」することで、たくさんの現場改善の打ち手を見付けられるようになります。

中林 MISを導入されている企業でも、経営者の方が強い意志を持って、主体的に運用に関わっておられるところはあまり多くないように感じています。MISの社内での運用定着を担当者の責任にして、「やらせている」という感覚の会社様の多くは失敗しているように見受けられます。

服部社長 多くの経営者様に当社のMISを視察していただいていますが、自分の事ではないようなコメントをされる方は「難しいな、、」と分かります。MISは経営の話なので、これだけは社長自身が自分ごとにしなければいけません。何しろ一番お金が落ちてるところなのですから。

中林 M&Aで新しくグループに入った皆様とMISは、共有されているのですか?元々仕組みや風土の違う会社ですが、各社の事情に合ったカスタマイズはされないのですか。

服部社長 基本的には「これに自分達の体を合わせて欲しい」と言ってます。既に10社で運用できているのですから、問題ないはずです。とは言え、会社ごとに多少カスタマイズすることもあります。

羽田課長 「名前を変える」「機能を足す」といった簡単な要望には対応します。実際、それでかなり対応できています。複雑な要望があった場合には、運用で対応する方法を考えます。

中林 なるほど。M&Aで新しくグループに参加した企業毎に多少のカスタマイズはするけれど基本的な部分は同じなのですね。MISを活用することで各社の各工程における非効率な部分が「見える化」されると、そこに対処することで収益性も向上していくのですか。

羽田課長 はい。やはり、まず「見える化」することが重要になります。M&Aした新しい会社の作業時間を仕事メーターで計ると、2カ月後ぐらいに全然儲かってないことが明らかになります。同時にその作業内容、例えば「7.5時間の仕事のうち1時間手貼り作業をしている」といったことも「見える化」されます。もしかしたら、その制作スタッフには手貼り作業を効率化するという意識がなかったかもしれません。真面目に「それが仕事だ」と考えていて。しかし、自動化が進んだ当社では、その手貼り作業の目標時間は「5分」です。見える化の結果、そのスタッフから「コストを抑えるために作業時間を抑えたい。これを自動化できないか」というコメントが出るようになったら、もうこちらのものです。

中林
新しく服部プロセスグループに入った企業でも、さまざまな効率化の仕組みを取り入れMISを活用して見える化を定着させる事で、ほんの数ヶ月で作業効率と利益率を高めているのですね。今回も大変参考になりました。ありがとうございました。次回(最終回)はグループ各社におけるMISなど『インフラ』を活用した効率化・見える化の取り組みや利益率改善の状況などについて詳しくお伺いします。次回もよろしくお願いいたします。


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